第七話 仲間の皆はやっぱりすごいです!
無事に個室を確保できたラテル。
しかしその油断が新たな危機を呼ぶとか呼ばないとか……?
どうぞお楽しみください。
無事に全員分の部屋が取れたラテルは、割り当てられた部屋に入ると荷物を置き、皮製の胸当て鎧を外して大きく伸びをしました。
「ん〜! 解放感! 皆の前じゃ外せないからなぁ。……そうだ!」
ラテルはシャツをまくり、胸に巻いていた布を外します。
小さいながら女性らしいふくらみを、ラテルは下ろしたシャツ越しにそっと撫でました。
「大きくなっても困るけど、これ以上小さくなっても困るもんね。外せる時には外しておかないと」
束の間の解放感を満喫するラテル。
そこに、
「ラテル」
「ぴゃあ!」
リュンヌがやって来て扉を開けました。
突然の事に、ラテルは悲鳴を上げます。
「な、なな、何!?」
「食事に行く」
「あ、う、うん、そうだね、そうだったね……。でも今はちょっと……」
「早く。エトワルがうるさい」
「え、あ、うん……」
胸の布を巻き直したいラテルでしたが、リュンヌに疑問を抱かれてはと、そのまま部屋を出ました。
(ど、どうしよう……。バレない、かな……?)
心持ち前屈みになりながら、ラテルはリュンヌと共に食堂に向かうのでした。
「あ、ラテル、リュンヌ、こっちだ」
「おいおっせーぞラテル。俺様腹が減ってるって言ったじゃねーか」
「ご、ごめ、ん……?」
待っていた二人を見て、ラテルは目を丸くしました。
どちらも先程までと同じ格好だったからです。
魔法使い帽子と仮面を被ったままのエトワルの違和感もなかなかでしたが、全身鎧を着たままテーブルに着いているソレイユの違和感は凄まじいものがありました。
「あ、あの、二人とも着替えたりしなかったの……?」
「私は食事の後、少し村の外で鍛錬をする予定だからな。このままで食べるよ」
「そ、そうなんだ……。エトワルは?」
「俺様は飯食って、風呂入ってる間にこなれたところで寝てーんだ。着替えるのは風呂の時だけで十分だろ」
「そ、そう言われればそうだけど……。仮面したままご飯食べるの?」
「あぁ、これか? ちょっと見てな」
エトワルはテーブルに置かれた水を手に取ると、そのまま口元に持っていきます。
すると、水の器は仮面を通過して、エトワルが喉を鳴らすのに合わせて水を減らしていきました。
「わ! すごい! それも魔法!?」
「そうだ。認識阻害の魔法で実体はねーんだ。だから飯を食うにも風呂に入るにも問題ねー。それを言うなら、騎士の旦那の方が面倒じゃねーのか?」
水を向けられたソレイユは、事もなげに答えます。
「私は騎士として、この鎧兜と共に訓練してきた。食事も睡眠も何の妨げもない」
そう言うと兜の口の部分だけを開けるソレイユ。
どう見ても器が口に付かない開き方でしたが、ソレイユは顔を上に向け、器から注ぐようにして水を飲みました。
「ふわぁ……。騎士ってすごいんだねぇ……」
「そ、そんな大した事じゃないさ。要は慣れだよ」
「いや、でもやっぱりすごいよ! 僕兜付けながら水をこぼさず飲むとか無理だもん!」
「ラテル」
隣にいたリュンヌが、はしゃぐラテルに声をかけます。
「何? リュンヌ」
「水」
「は、はい」
振り向いたラテルの前で、近くにいた店員から水を受け取ると、
「……んっ」
覆面の下に手を入れたかと思った瞬間、器をあおり、水を一瞬で飲み干しました。
「え、えぇ!? 喉がごくんってしてないのに水が消えたよ!?」
驚くラテルに、素早く覆面を戻したリュンヌが答えます。
「喉を開く。そうすると一瞬で飲める」
「すごーい! 手品みたーい!」
「修行の賜物」
「僕にもできるようになるかな」
「必要なら教える」
「わーい!」
三者三様の芸に、自身の秘密を忘れて喜ぶラテル。
彼女は知りません。
三人の行動の本当の意味を……。
読了ありがとうございます。
ソレイユは器に若干高い位置に上げ、口に注ぐように飲んでます。
これなら兜が邪魔して口を付けられなくても大丈夫。
高校時代、回し飲みをする際に身に付けました。
今でもペットボトルなら口を付けずにこぼさず飲めます。
リュンヌの喉を開く技は、以前飲み屋の店員さんがおごりのビールを一気飲みした時に見ました。
本当にすって消えて驚きました。
その方は酒豪だったのでその後もばんばんおごられてましたが、私が真似したら死にます。
次話もよろしくお願いいたします。