最終話 最後の最後に大混乱です!
魔王ジューヌとの和解を果たしたラテル一行。
王様はその功績を讃えて式典を行う事にします。
そこに不穏な影が忍び寄り……?
どうぞお楽しみください。
アンシャンテ王国に魔王との和解の報せが入って数日後。
お城では盛大なお祝いの催しが始まろうとしていました。
その主役であるラテルは、その威容に圧倒されています。
「ふわー……。すごい豪華だね……」
「当然だろう。ラテルのお陰で魔物の脅威は去ったのだ。今日が『ラテルの日』として祝日になってもおかしくないのだぞ?」
金色の髪をたなびかせるソレイユの言葉に、ラテルは慌てて手を振りました。
「そ、そんな! 僕だけじゃなくて、みんながいたからできたんだし……!」
「確かに俺様達の力は大きかっただろーよ。でもな、それはラテルが勇気を出して旅に出たから、俺様達にも出番が回ってきたんだぜ?」
「そ、そうかな……」
素顔で語りかけるエトワルに、照れたラテルは頬を掻きます。
「自分はラテルがいたから旅に出られた。ラテルを守ろうと思ったから強くなれた。だからラテルは勇者」
「ありがとうリュンヌ……!」
覆面越しでないリュンヌの声は、ラテルの心に強く響きました。
「さぁラテルよ! 妾との友好を皆に示し、魔族と人間との争いを終わりにするのだ!」
「そうだねジューヌ!」
魔王ジューヌのはしゃいだ声に、満面の笑みを浮かべるラテル。
「勇者ラテル御一行様と魔王ジューヌ様。式の支度が整いましたので玉座の間にお越しください」
「はい!」
兵士に案内されて、五人が玉座の間へと進みます。
王様がそれを玉座から立ち上がって迎えました。
「勇者ラテルとその仲間達! そして魔族の王ジューヌ殿! 諸君の友情がこの世界に平和をもたらした事、心より嬉しく思う!」
「ありがとうございます!」
「妾も人との争いを終わりにできて、心より満足しておる」
ラテルとジューヌの応えに、王様は何度も頷きます。
「では皆杯を取れ! 今後も人間と魔族の友情が永遠に続く事を願って! 乾杯!」
『乾杯!』
そこここで器が澄んだ音を立てて打ち合わさり、宴が始まりました。
集まった貴族や兵士、町の人達もようやく訪れた平和に喜びを隠せません。
と、その時、にわかに空が曇り始めました。
最初に異変に気付いたのは、ジューヌです。
「この魔力……! 大魔王様……! まさか自ら地上を征服に……!?」
「えっ!?」
「ジューヌの更に上にいる魔族か……!」
「へっ、やっぱり最後はド派手な戦いがねーとなー!」
「最終決戦」
身構えるラテル一行。
しかしジューヌは身体の震えを隠せません。
「……無理じゃ……! 大魔王様の強さは妾など到底及ばぬ……! 潔く罰を受けるしかない……!」
「そんな事はないさ」
震えるジューヌの頭に、ソレイユが優しく手を置きました。
「人間と魔族の争いを終わらせたジューヌが罰せられる謂れなどない」
「そ、ソレイユ……!」
「どうしてもジューヌに罰を与えるって言うならよー」
続いてエトワルが、ローブを翻してジューヌの前に立ちます。
「それが間違いって事を、俺様達が徹底的に叩き込んでやるさ!」
「エトワル……!」
「だから隠れていて」
リュンヌもジューヌを庇うように、武器を構えました。
「友達は必ず守るから」
「リュンヌ……!」
今にも泣きそうなジューヌの手を、ラテルが握りました。
「泣かないで。僕達が作った平和は、笑って過ごすためのものだからさ!」
「ラテル……!」
涙を拭ったジューヌに、もはや震えはありません。
「妾も戦うぞ! 大魔王が何じゃ! 皆で力を合わせれば恐るるに足らぬ!」
「あぁ、そうだな!」
「いいね! 最高だぜ!」
「同意」
「さぁ! 最後の戦いだ!」
ラテルの声に応えるように、飛んできた大魔王はベランダへと降り立ちました。
続いて強い力を持つ何者かが二人、その脇に並びます。
緊張が場を支配したその時。
「ジューヌ! 元気だったか!」
「お父様!?」
大魔王の側に立った人影が、ジューヌへと駆け寄ります。
「せ、先代魔王……!?」
「生きていたのか……」
「え、でもラテルの親父さんと相討ちになったんじゃ……?」
「……あの人もしかして」
リュンヌが指し示したもう一つの人影が、にこやかな笑顔と共に大きく手を振りました。
「いやーラテル! 大きくなったなぁ!」
「お、お父さん!?」
『えええぇぇぇ!?』
先代勇者ヴァーラントの帰還に、皆が驚きの声をあげるのでした。
「……つまりお父さんと先代の魔王は、殴り合っているうちに仲良くなって、更に大魔王とも殴り合って仲良くなったって事……?」
「そうだな!」
あまりに無茶苦茶な話に、ラテル一行と城の人達は絶句します。
「それで地上での争いを収めようと思って来たら、もう仲良くなっていたのでな! 驚いた! はっはっは!」
「僕達の方が驚いたよ!」
文句を言いながらも、笑顔が抑えられないラテル。
「よくぞ魔族と人を結びつけたの。吾輩の自慢の娘じゃ」
「お父様……!」
抱き合う魔王親子の姿に、皆が涙を拭います。
「光を求め、地上を奪おうとしたが、人の尊さを知った今、共存の道を歩みたい。人の王よ、良いかな?」
「勿論です!」
大魔王と王様は固く手を握り合いました。
こうして更に固い平和条約が結ばれ、人間と魔族に末長く平和が訪れたのでした。
そして……。
「ラテルー。何か手伝うかー?」
「ううん、もうできるから座って待っててー」
「しかし何もしないと言うのも気が引ける。飲み物くらいは用意させてくれ」
「食器も並べる」
「良い匂いじゃのー。ラテルの料理は毎日食べても飽きないのじゃ!」
五人は王様にもらった大きな家で、仲良く楽しく暮らすのでした……。
読了ありがとうございます。
大魔王を雑に片付けてしまったが、仲良し五人娘のほのぼの生活を書けた私に悔いはない……!
後で脳筋勇者ヴァーラントと、天に向かう塔を登ってドラゴンと戦ったりすれば良いと思います。
途中虹の聖女の連載にかまけて完結までだいぶ空いてしまいましたが、ようやく完結と相成りました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!