第五十五話 秘密を明かす時が来ました!
決戦前夜。
帰れないかもしれない戦いを前にして、ラテルは自分が女である事を告白しようと決意します。
果たして仲間達の反応は……?
どうぞお楽しみください。
夜。
アフェリの屋敷で割り当てられた部屋の中、ラテルは高鳴る胸を押さえていました。
(大丈夫……。大丈夫……。みんなならきっとわかってくれる……)
明日の最終決戦を前に、自分が女である事を告白する覚悟を決めたラテルでしたが、それでも不安は募ります。
(怒られるかな……。それともがっかりされちゃうかな……)
時間が経つごとに色々な想像がラテルの脳裏をよぎっていきました。
(も、もしかして、女って言ったら、その、やっぱり、そういう事になるかもしれないんだよね……。どうしよう……)
その時です。
「ラテル」
「は、はい!」
ノックとソレイユの声に、小さく跳ねるラテル。
その様子を察したソレイユが、遠慮がちに声をかけます。
「あ、すまない。準備は整い、皆揃ったのだが、まだ早かったか?」
「う、うぅん! 大丈夫! 入って!」
「わかった」
扉が開き、ソレイユ、エトワル、リュンヌが部屋に入って来ました。
「あの、じゃあ座って……」
「あぁ」
「おう」
「了解」
三人はラテルに勧められるまま、席に座ります。
そして降りる沈黙。
(は、早く話さないと……。でも何から話したらいいんだろ……?)
慌てるラテルに、三人は何を言うでもなく、じっと座っています。
その静かな様子を、以前のラテルなら怒りや苛立ちと感じ取ったかもしれません。
しかし、
(……そっか……)
ラテルの肩から、ふっと力が抜けました。
(待ってくれてるんだ……。魔王の城に行く前の夜に、僕が大事な話って言ったから、みんなも真剣に待ってくれてるんだ……)
ソレイユは甲冑。
エトワルは仮面。
リュンヌは覆面。
一度も素顔を見た事がない三人ですが、その気持ちはちゃんと繋がっているのをラテルは感じていました。
もう不安はありません。
ラテルはにっこり笑って言いました。
「あのね、僕実は女の子なんだ」
「……!」
「……!?」
「……」
まるで時が止まったかのように、張り詰めた沈黙が部屋に満ちていきました。
「あ、あの……」
「……」
「……」
「……」
もっと動きのある反応を想像していたラテルが慌てて話しかけますが、三人はまるで彫像のように固まったままでした。
「そ、その、ごめんね……。だ、だますみたいになっちゃって……。怒ってる、よね……?」
「……いや、その、ちょっと待ってくれ。気持ちの整理が追いつかなくて……」
「……俺様も、流石にこれは驚いたぜ……」
「……驚愕」
「だ、だよね、あはは……。その、ごめんなさい……」
小さくなるラテルに、ソレイユが慌てて手を振ります。
「違うんだ! その、責めている訳ではなくてだな! ……その、こういう事なんだ……」
少しためらった後、ソレイユは自らの甲冑に手をかけました。
金具を外し、兜を持ち上げると、そこから溢れる金色の川。
それが長い金髪だと理解したラテルは、
「うえええぇぇぇ!? ソレイユも女の人だったのー!?」
と叫び声を上げました。
その声に、ソレイユは恥ずかしそうに、長いまつ毛が彩る目を伏せます。
「……あぁ、私は女なのだ……。その、我が家には男が生まれず、私がその男として育てられて……」
「僕と一緒だ……」
「そうだったのか……。ならば隠す必要はなかったのだな……」
「ほんとだね……」
ほっとしたように息を吐くソレイユ。
ラテル目を合わせて笑い合います。
そんな和んだ空気に、
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
混乱した様子のエトワルが割って入りました。
「あ、ごめんね。僕達だけですっきりしちゃって……」
「家の事情でほとはいえ、騙していた事は心より謝罪をさせてもらいたい」
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
「どうした?」
首を傾げるラテルとソレイユに、エトワルはバツが悪そうに帽子をかきます。
「あの、俺様も、女、なんだけど……」
「えええぇぇぇ!?」
ラテルの叫び声に、帽子を取り仮面の形をした認識阻害魔法を解除するエトワル。
そこには自らの赤い髪よりも顔を赤くした美少女が、小刻みに震えていました。
「い、言えよお前ら! そしたら俺様だってもうちょっと、こう、色々やりようがあったのによ!」
「ご、ごめん……。でも何で……?」
ラテルの疑問に、エトワルは大きく溜息を吐きます。
「……魔法使いの世界ってのは男ばっかりで、しかも長く研究してる、つまり歳食ってりゃ偉いっつー馬鹿な風習があってな……」
「それで女でしかも若い身では侮られると思ったのか」
ソレイユの言葉に、エトワルはこくんと頷きました。
「……そういうこった。だけど魔王をぶっ飛ばしたとなりゃ、そんなのもひっくり返せると思ってな……」
「それで一緒に来てくれたんだ……」
「わ、悪い! ラテルを利用するみたいになっちまって……! でも今は自分の名声の事よりラテルの事大事に思ってるから!」
「うん! わかってる!」
「ラテル……!」
疑いなどかけらもない様子のラテルに、心から安心した様子で息を吐くエトワル。
するとそこに、
「自分も一つ」
リュンヌが手を上げました。
「あ! ごめんね、何だか僕達だけ話しちゃって……」
「別にいい。自分も秘密あったから」
「私達のも聞いてもらったんだ。話してほしい」
「……おい、ちょっと待てよ? まさか、お前まで……?」
エトワルの恐る恐るの言葉に、リュンヌはこくんと頷き、
「自分も女」
と覆面を取ります。
髪こそ男のように短く切ってはいましたが、顔つきは紛れもなく女性のそれでした。
「にえええぇぇぇ!?」
「あと一つ。実は斥候じゃなく忍びの一族」
「うっそおおおぉぉぉ!」
「あぁ、それはわかっていた」
「どう考えても斥候の動きじゃなかったからな」
「……不覚」
驚きの波が少し落ち着いたところで、ソレイユが口を開きます。
「……という事はつまり、私達は全員女だったのだな……」
それを受けて、エトワルとリュンヌが大きく溜息をつきました。
「しかも男の中で女一人だと思い込んで、勝手に苦労してたって事かよ……」
「徒労」
一時の沈黙。
その後ラテルが弾かれたように笑い出しました。
「あっはははははははは!」
「な、何だラテル?」
「おい、どうした!?」
「ラテル気を確かに」
「だ、大丈夫……! でも、何か、安心したら、おかしくなっちゃって……! ふっふふ……!」
それがうつったかのように、三人も笑い出します。
「ふふっ、確かにな……。私など宿屋でも甲冑を着込んだままで……」
「ぶはははは! 俺様なんか仮面のまま飯食ってよ! 宿屋の親父の目が酷かったなぁ!」
「くくっ、滑稽」
思い思いにひとしきり笑うと、全員が大きく息を吐きました。
「あー、何かすっきりしたねー」
「そうだな。胸のつかえが取れたようだ」
「魔王を退治しに行く前夜だってのに、こんな緩んじまっていいのかねぇ」
「問題ない。今の方が良く動ける」
四人は顔を合わせてにっと笑い合います。
「それじゃあ明日は魔王の城に行って!」
「さっさと魔王を退治してだ」
「今までの鬱憤を晴らすために、思いっきり宴会しようぜ!」
「同意」
「じゃあまた明日!」
「あぁ!」
「おう!」
「うん」
頷き合った四人は、まるで遊びの予定が決めまったかのように笑顔で言い合うと、それぞれの部屋へと戻っていきました。
……しかしこの国の歴史には、この翌日に『勇者が魔王を退治した』という記述は残されていません……。
読了ありがとうございます。
元の案ではこの話と次話だけだったのに、どうして……。
いよいよ決戦!
次回もよろしくお願いいたします。




