第五十話 お頭さんとの対面です!
海賊を制圧し、魔王の居場所の情報を聞き出そうとするラテル一行。
すると海賊船の船長は、ラテル一行をお頭に会わせるとアジトに案内するのでした。
どうぞお楽しみください。
海賊のアジトに案内されたラテル一行。
「ちょっと待ってくれ。お頭に話を通してくる」
船長はそう言うと、扉の奥に消えていきました。
残されるラテル一行と海賊達。
微妙な緊張感が漂います。
「さて、ここまでは最も理想的な流れで来ているが」
「油断をしねーに越した事はねーな」
「いつでもやれる」
海賊達の奇襲に備えて態勢を整える三人。
そんな緊張感を全く感じていない様子で、
「ねぇ、海賊さん達のご飯ってどんなの?」
ラテルは周りの海賊に話しかけます。
「え? えっと、海の上だと乾燥させた麦餅と、塩漬け肉だな……。陸に戻ると航海の無事を祝って色々飲み食いするけど……」
「その時はどんなご飯を食べるの?」
「と、鳥とか豚を丸ごと窯に入れて、丸焼きにしたものを切り分けて……」
「そんな大きな窯があるんだ! どこにあるの!?」
「アジトの裏に……」
「へぇー! 見たいなー!」
「あ、じゃあこっちに……」
言われるままに案内しようとする海賊と、付いて行こうとするラテルを、
「待ってラテル」
「海賊に会って気持ちが昂るのはわかるが、もう少し緊張感を持ってほしいな……」
「ラテルらしいっちゃらしいんだけどよ……」
三人が慌てて止めました。
「あ、ごめん! お頭さんに会ってからだよね!」
「……まぁ、そうなのだが……」
「気ぃ張ってたのが阿呆らしくなってくるな」
「それでこそラテル」
ふわりと空気が柔らかくなったところで、扉が開きます。
「待たせてすまねぇ。お頭が会うそうだ。中に進んでくれ」
「あ、はい!」
船長の言葉に、ラテル一行は海賊のアジトの奥へと進んでいくのでした。
案内された部屋の奥に、大きな帽子を被った人物が大きな長椅子に深々と腰掛けています。
その姿に、ラテルは目を丸くしました。
「お、お頭さんって、女の人……?」
その言葉にお頭はにたりと笑います。
「おうよ。あたしはマーレ。この海賊団の頭だ。あんたが勇者だって?」
「あ、はい、ら、ラテルと言います……。よろしくお願いします……」
マーレの自己紹介にとりあえず挨拶を返しますが、ラテルの頭の中は混乱を極めていました。
(え、え? あの強そうな男の人ばっかりの海賊さん達のお頭さんが女の人……? 何で……?)
そんな様子を察したのか、マーレはからからと笑います。
「まぁそういう顔になるよな。荒くれ者のまとめ役がこんな華奢な女だなんて」
「えっと、その、……ごめんなさい」
「謝る事はないよ。そんなの慣れっこだからな」
謝罪をさらりと流すマーレに、ラテルは興味を持ちました。
「……あの、聞いてもいいですか?」
「魔王の事か? そんなに慌てなくてもちゃんと教えるよ」
「あ、あの、それもそうなんですけど、何でマーレさん、お頭さんになったんですか?」
「は?」
ぽかんとした後、マーレは天井を仰いで大笑いします。
「あっはっはっは! 面白いなあんた! いやラテル!
魔王の事よりあたしの生い立ちが気になるなんてな! いいよ、教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「と言っても大した話じゃないけどね。あたしの親が海賊の頭だった。それが魔物に船ごと襲われて行方不明になったから、あたしが跡を継いだ。それだけさ」
「親が、お頭……」
マーレの話に、ラテルは何とも言えない親近感を覚えました。
勇者を父に持った自分と、同じ境遇と感じたからです。
(でもこの人は、女である事を隠さないで堂々とお頭さんをやってる……。僕は……)
深く考え込んだラテルの様子を、身の上話に同情したと勘違いしたマーレが手を大きく振りました。
「あのな、これでも生まれた時から海賊の中で生きてんだ。嵐、魔物、病気……。海に出たらいつ死んでもおかしくないって覚悟くらいはできてるんだよ」
「……強いね、マーレさんは……。僕は父さんの跡を継げるかどうか、不安で仕方がないのに……」
ふとこぼれた弱音。
はっと気付いて、取り消そうと慌てるラテル。
「あ! ごめんなさい! 僕も勇者として頑張ろうって気持ちはあるんだけど、その……!」
「わかってるよ。あのヴァーラントさんの子どもとなれば、周りの期待も凄いだろうからな」
「!? 父さんを知ってるの!?」
「あぁ、そうさ。船を持ってないヴァーラントさんを乗せて航海したのは、他でもないうちの海賊団だからな」
混乱している中に、更なる衝撃の事実を伝えられ、
「えぇー!?」
思わずラテルは大声を上げるのでした。
読了ありがとうございます。
女海賊マーレは、ラテン語で『海』を表すMareから。
大きめの海賊帽子を被った女の子とかいいですよね?
……私だけ?
次話もよろしくお願いいたします。