第四十三話 僕は僕なりに頑張ります!
仲間に秘密を明かしたいと思いつつ、それは一人前になってからと決意を新たにするラテル。
夜にこっそり特訓をしに宿を出ますが……?
どうぞお楽しみください。
夕食を終えて部屋に戻ったラテルは、剣を持って宿の外に出ました。
(少しでも強くなって、皆の力になれるようにならないと!)
少し歩いて広場に来たラテルは、剣を抜いて素振りを始めます。
同時に魔法の詠唱をしながら、小さく『火球』の魔法を放ち、実戦を想定した動きを繰り返しました。
「……ふぅ、これならきっと僕だけの戦い方ができるぞ……!」
「確かに」
「にぃえあああぁぁぁ!?」
すぐ近くから聞こえたリュンヌの声に、ラテルは叫び声を上げます。
「ラテル。夜に騒ぐと迷惑」
「あっ、ご、ごめん……。び、びっくりして……」
「驚かしてごめん」
「う、ううん。リュンヌはどうしたの?」
「ラテルが宿を出た気配がしたから」
「……それで追いかけてきてくれたの?」
「そう」
「……ずっと見てたの?」
「そう」
「ご、ごめんね、心配かけちゃって……」
頭をかくラテルに、リュンヌは首を振りました。
「自分こそ迷惑をかけた」
「え、な、何が?」
「ナフでの作戦。役に立たなかった」
「そ、そんな事は……」
ないと言い切れないラテルは言葉に詰まります。
「自分はもっと役に立ちたい」
「う、うん、すごくリュンヌには助けてもらってるよ!?」
「でも足りない。素性の知れない自分を仲間にしてくれたラテルの恩には」
「リュンヌ……」
不安気に見えるリュンヌの姿に、ラテルは自分を重ねました。
「僕も、だよ」
「え」
「僕もそうなんだ。不安なんだ。ちゃんと勇者をやれてるのか、皆の負担になってないのか……」
「ラテル……」
「皆にまだ言えてない事もある。こんなので本当に仲間って言えるのか、いつも考えちゃう……」
「……」
「リュンヌは強いし敵の気配もわかるし、僕なんかより全然すごい。だから」
「それは違う。ラテルも凄い」
「えっ」
思わぬ強い言葉に、ラテルは目を丸くします。
「できない事を頑張るのは凄い。自分でどうすれば良いか考えて動けるのも凄い」
「え、でもまだまだで……」
「自分はさせられてるだけだった。里の掟に従う事しかしてこなかった」
「……リュンヌ」
「だからせめてラテルを支えたい。何もない自分にできるのはそれだけだから」
「!」
リュンヌの言葉に、ラテルの頭に血が昇りました。
「そんな事ない! 今僕を支えたいって言ってくれたのも、掟とかそういう事!? 違うでしょ!?」
「ラテル……」
「それがリュンヌの意志だよ! 何もないなんて言わないで! だって僕は、今リュンヌに支えたいって言ってもらえて、すごく嬉しかったんだから!」
「……」
「まだ自信のない僕に言われても不安かも知れないけど、魔王をやっつけたらやりたい事、一緒に探そう?」
「……うん」
その時ラテルには、リュンヌが覆面の下で笑ったように見えました。
「話せて良かった」
「僕も!」
「じゃあ宿に戻る。明日は王様との面会」
「うん!」
連れ立って宿へと足を向けるラテルとリュンヌ。
次の光がその道をほのかに照らしているのでした。
読了ありがとうございます。
次はいよいよ船を手に入れに行きますが、少しトラブルもあるようで……?
次話もよろしくお願いいたします。