第四十一話 作戦が全部ご破算です!
アンジェとサンセルを結婚させるべく、お芝居を敢行するラテル一行とセリホミ。
しかしうまく行きかけていた作戦は、思わぬところから綻び始めて……?
どうぞお楽しみください。
拳を握りしめ、絞り出すように言ったのは、
「サンセル、さん……?」
この作戦の要、サンセルでした。
ラテルの戸惑いにも構わず、サンセルは叫びます。
「やっぱり駄目だ! こんなのは……! 僕は、僕自身をアンテトさんに認めてほしい! 胸を張ってアンジェと夫婦になりたい!」
「お、おい、どうした? ま、まー、こんな変態筋肉を目の当たりにしたら、動揺するのもわかるけどよ……」
「そ、そうだぞ! こんな事で慌てる男なら、やっぱり俺の方が男らしさは上だな!」
エトワルとセリホミが必死に場を取り繕おうと頑張りますが、サンセルは激しく首を横に振りました。
「アンジェとは結婚したい! でもこんな騙すような方法じゃ、胸を張ってアンジェの夫と言えない! アンテトさんの義息子と名乗れない!」
「サンセル、お前……」
事情が飲み込めない混乱がありながらも、サンセルの必死の言葉にアンテトは目を丸くします。
「たとえめちゃくちゃ頑固でも、救いようのない親馬鹿でも、旧来の考え方を捨てられない石頭でも、アンジェのお父さんなんだから……!」
「……ず、随分言ってくれるなサンセル……」
苦虫を噛み潰したような顔のアンテトの前に、サンセルが膝をつき、頭を下げました。
「すみません! これはお芝居でした! セリホミさんからアンジェを取り戻したら、アンテトさんに男らしいと認めてもらえると思いました!」
「……」
「でもアンテトさんを騙してアンジェと結婚する事こそ男らしくないと思ったんです! だから僕は別の形で男らしさを示します!」
「……へっ、生意気抜かしやがって。お前に何が示せるって言うんだ!」
アンテトの言葉に、サンセルががばっと顔を上げます。
その勢いに少し引きつつもアンテトは踏み止まり、サンセルの言葉を待ちました。
「はい! 筋肉です!」
「何ぃ!?」
「セリホミさんのような筋肉! 男らしさの象徴! 僕はむきむきになって、アンテトさんに認めてもらいます!」
「馬鹿かお前は! 男らしさは筋肉じゃねぇ!」
「え、じゃあ女らしさ……?」
「それも違う!」
呆れたように強い溜息を吐いたアンテトは、決まりが悪そうに頭を掻きます。
「……だからよ、さっきみたいな、周りが何を言おうが自分が正しいと思った事を貫く、それが男らしさってもんだ……」
「……じゃ、じゃあ……!」
「……ま、一応候補としては考えておいてやる」
「ありがとうお父さん!」
「ありがとうございます! お義父さん!」
「その呼び方はまだ早ぇ!」
怒鳴りつけるアンテトの声は、それでもどこか嬉しそうでした。
「何とか丸く収まったな」
「ったく、ひやひやさせやがって」
「作戦無視。後でお仕置き」
「あはは……。でも皆が幸せなら良かったよ」
「流石勇者さんだ! 良い事言うぜ!」
見守るラテル一行とセリホミも笑顔に包まれます。
しかしその中で、ラテルはふと思うのでした。
(……やっぱり僕が女の子だって事、ちゃんと言った方が良いのかな……。そうしたら、もっと皆と仲良くなれるのかな……)
読了ありがとうございます。
ラテルの気づきが今後の旅にどんな影響を与えるのでしょうか?
それはまだ誰にもわかりません。
作者にも……。
次話もよろしくお願いいたします。




