第四十話 問題解決大作戦です!
アンジェ誘拐事件がお芝居だとわかったラテル一行。
しかしこのままでは事態が解決しそうにありません。
そこでラテル一行の取った行動は……?
どうぞお楽しみください。
ナフの町では、アンジェの父アンテトと、置いて行かれた女商人アフェリが、ラテル一行の帰りを今か今かと待っていました。
「なぁ行商人さん! 勇者様達は強いんだろうな!? アンジェは無事戻ってくるんだよな!?」
「あー……、だ、大丈夫ですよ! なんたって勇者様ですから!」
アンテトの必死な問いに、アフェリは曖昧な笑みを浮かべながら答えます。
フイットの町でラテル一行に声をかけたのは、ラテル以外が食事の時も冒険用の服装のままだった様子に、熟練者と思ったのがきっかけでした。
実際に戦っている場面や上げた成果を知らないアフェリには、今更ながら不安が押し寄せて来ます。
と、その時。
「あ! 帰って来ましたよ!」
「アンジェ! アンジェー!」
通りの先に見えたラテル一行と愛娘の姿に、たまらず駆け出すアンテト。
その足がぴたりと止まりました。
「あ、アンジェ……? そいつは……?」
アンジェの隣にムキムキの男が立っていたからです。
しかも手を繋いで。
「お父さん、ただいま」
「ただいまってアンジェ、お前……! そいつは今朝お前を連れ去った男じゃないか! 何で手なんか繋いでるんだ!」
「私ね、この人の事好きになっちゃったの!」
「な、何ぃー!?」
驚きに目をむくアンテト。
アンジェはにこにこしながら続けます。
「最初はびっくりしたけど、さらったのは私が好きだからだって言うの! 情熱的で素敵! それにこの人すっごく男らしいの! 一発で好きになっちゃった!」
「お前娘に何したこの野郎!」
「はっはっは。お姫様抱っこを少々」
「よ、良かった……。いや良くない! アンジェ! そんな男に何で……!」
「だってお父さんが『男らしい男でないと結婚は許さん!』っていつも言ってるじゃない」
「は……?」
アンテトは言葉を失いました。
「だから私はすごく男らしいこの人と結婚する事にしたの。いいでしょ?」
「いや、それは……」
うめくように言うのが精一杯のアンテト。
それはアンジェがサンセルに、いえ、誰かの元に嫁ぐのが嫌で言っていた言葉でした。
それがまさかこんな形で返ってくるとは思っていなかったのです。
助けを求めるように二人の後ろに立つラテル一行に駆け寄りました。
「あ、あの、駄目ですよね!? 盗賊との結婚なんて……!」
「え、いや、本人同士の問題なんで、僕達からはちょっと……」
「悪い男ではないと思うぞ」
「良いじゃねーか。男らしさは十分だぜ?」
「問題ない」
「そんな……」
アンテトはがっくりと膝をつきます。
(こんな事ならサンセルとの結婚を認めておけば良かった……)
絶望でアンテトの顔が蒼白になったその時。
「アンジェー!」
「!?」
叫び声に顔を上げると、その先には必死の形相のサンセルがいました。
「僕は君が好きだ! そんな男に君は渡さない!」
「さ、サンセル……!」
アンテトの顔に救世主を見たような希望が輝きます。
それを見たラテルの笑顔に、それとなくソレイユが肘で教えました。
(おっと、危ない危ない……! でもうまくいきそうだね!)
ラテルは心の中で拳を握ります。
これがリュンヌの提案した作戦でした。
アンジェがセリホミを好きになった風に見せ、その後にサンセルが告白したら、アンテトはサンセルを選ぶだろうという目論見です。
(これでセリホミさんがアンジェさんをさらった事も好きだったからって事になるし、ちゃんと向き合えばアンテトさんもサンセルさんの良さがわかるよね!)
安堵するラテル。
しかし、
「……駄目だ……!」
「!?」
その言葉は、思わぬ方向から聞こえて来たのでした。
読了ありがとうございます。
「ちょっと待ったー!」
完璧なはずの作戦に水を差すのは一体……?
なお昨日書き忘れた元盗賊の親分セリホミは、フランス語で『改心する』という意味のse réformerから。
響きが不思議でクセになります。
次話もよろしくお願いいたします。