第四話 仲間が揃いました!
魔術師エトワルを仲間にしたラテル。
後は斥候を仲間にすれば旅立てますが……?
どうぞお楽しみください。
エトワルの見事な魔法に、冒険者の酒場はざわついていました。
我に返ったソレイユが咳払いを一つすると、再び声を上げます。
「もう一人、罠や敵の察知に長けた者が仲間にほしい! 腕に自信のある者はいるか!?」
その様子を見ながらエトワルが、不満そうに鼻を鳴らしました。
「へっ、まだ仲間が必要なのかよラテル」
「うん。王様がね、罠とか敵を見つけられる人を仲間にすると良いって」
「んなもん俺様一人いれば十分だろ。罠も敵もまとめて吹っ飛ばしてやるからよ」
「でもいきなり襲われたりしたら危ないよ……」
ラテルの不安げな言葉に、エトワルは自信満々に胸を張ります。
「さっきの魔法、見ただろ? 俺様は呪文を唱えなくても魔法が使える。不意打ちなんか食らいやしねーよ」
「そうか」
「!?」
くぐもった声と首筋に冷たさを感じた瞬間、エトワルは頭の後ろの空間を魔法で爆発させました。
声の主は素早く跳び下がると、両手を広げて頭の横に上げ、敵意がない事を示します。
「な、何だてめーは!」
「リュンヌ。斥候」
「嘘つけ! 覆面なんかして、背後から気配を消して首筋に手を当てるなんて、どっからどう見ても暗殺者じゃねーか!」
「違う。斥候」
「でも今の動きは……!」
「斥候」
「いやだから」
「斥候」
「う……」
「せっ」
「わかった! 斥候でいいから迫ってくんな!」
その言葉に満足したのか、リュンヌはエトワルから離れ、ラテルに向き直りました。
「勇者ラテル。斥候必要なら仲間に入れてほしい。必ず役に立つ」
「うん! あ、でもちょっと待って! 斥候の人を仲間にする時は、ソレイユに決めてもらうって約束してたから! ね、ソレイユ!」
「……あぁ」
リュンヌとエトワルの漫才の間にラテルの横に戻って来ていたソレイユが曖昧に頷きます。
「……いやはや、離れて見ていても君の動きは感知できなかった。凄いな君は」
「光栄」
「……その、気配を消したり、足音を立てない動きは、どのようにして習得したのだ?」
「極秘」
「そ、そうか……」
つかみどころのないリュンヌに、言葉を失うソレイユ。
(怪しい! どう見ても怪しい! だが強いのは間違いないし……。どうしたものか……)
するとその横にエトワルが寄り、そのマントを引きます。
「騎士の旦那。ちょっと」
「?」
引かれるままに少し離れて軽く膝を曲げたソレイユの兜の耳当てに、エトワル小声を送り込みました。
(あいつは仲間にした方がいい。味方なら心強いし、敵だとしても目の届くところに置いておいた方がいい)
(……成程。あの能力で不意打ちを受ける危険を考えたら、意図が読めるまで側に置く、か……)
(あぁ。……悔しいが俺様、あいつの不意打ちに全く気付けなかった……。あれで刃物を使われてたら死んでいたぜ……)
「そんな事はない」
「!?」
「おまっ、いつの間に……!?」
驚く二人に、密談を遮ったリュンヌは淡々と言葉を続けます。
「ここは酒場。警戒心が薄れる。それに今は殺気を込めていなかった。反撃に備えて浅く近付いた。それでもあの反応は早かった。貴殿は強い」
「え、そ、そうか? な、何だよお前良い奴だな!」
仮面越しにでも相好を崩したのがわかるエトワルの声色の変化に、ソレイユは深く溜息をつきました。
そこにラテルが駆け寄ってきます。
「すごいねリュンヌ! さっきまで僕の側にいたのに、一瞬でひゅって! 格好良いなぁ! 僕も練習したらできる!?」
「仲間になれたら教える」
「やったぁ! ねぇソレイユ! リュンヌを仲間にしても良いよね!?」
「……」
友達に出会った子どものような喜びいっぱいのラテルの瞳。
それがソレイユの天秤を傾けました。
「……そうだな。よろしく頼む、リュンヌ」
「承知」
「これで仲間が揃ったね!」
「よーし、魔王の野郎をぶっ飛ばしに行こうぜ!」
こうして四人の揃った四人の勇者一行。
勇者ラテル。
騎士ソレイユ。
魔術師エトワル。
斥候リュンヌ。
しかし旅への希望で満ち溢れていたラテルには、他の三人にも自分と同じように秘密がある事に、まだ気付いていないのでした。
読了ありがとうございます。
斥候リュンヌは、フランス語で『月』を表すLuneから取りました。
本人は斥候と言い張っていますが、一般的な忍者っぽいイメージで大体大丈夫です。
次話もよろしくお願いいたします。