第三十四話 行商人さんは強敵です!
胸のたわわな行商人に翻弄されるラテル。
しかし仲間はそれには惑わされないようで……?
どうぞお楽しみください。
席に着いた行商人は、さばけた態度で話を始めました。
「まずは自己紹介だね。あたしはアフェリ。見ての通り行商人さ」
「あ、ぼ、僕はラテルです」
「私はソレイユ、職業は騎士だ」
「……俺様はエトワル。大魔術師だ」
「リュンヌ。斥候」
「成程、じゃあ君が勇者なんだね」
「あ、は、はい」
「ふぅ〜ん……」
アフェリの目がすうっと細くなります。
その品定めをするかのような視線に、ラテルの背に悪寒が走りました。
しかし、
「っ……!」
「おっと、嫌われちゃったかな?」
強い目で睨み返すと、肩をすくめるアフェリ。
そこに苛立った様子のエトワルが口を挟みました。
「で? とっとと話せよ。俺様達が船を手に入れられない理由ってやつを」
「はいはい。せっかちな男は嫌われるよ?」
「けっ。お前にはむしろ嫌われたいね」
エトワルに敵意に近い感情を向けられても、アフェリは動じた様子もありません。
「ははっ。じゃあ話そう。一つは遠洋の危険度が上がった事さ。魔物の活動が活発化して海路の安全が大きく揺らいでいる」
「それで船が壊されて造船所がてんやわんや、って事か?」
「そう、それが一つ」
「だが待てよ。そんな状況なら船を放棄する船主もいるだろう? それを買えばいいじゃねーか」
「へぇ、大魔術師ってのもはったりじゃなさそうだねぇ」
「うるせぇ。続きを話せ」
「……」
アフェリの言葉に全く態度を変えないエトワルに、ラテルは小さく驚きました。
(いつもだと『そうだろう? 流石俺様!』って感じに嬉しそうになるのに、アフェリさんの事、そんなに警戒してるのかな……)
アフェリは表情を変えずに続けます。
「そしてもう一つ。海難事故の頻発による、国としての立場と対策」
「は? 何だそりゃ!?」
「……成程な。国民が犠牲になるとなれば、国として規制を設けざるを得ない、と」
「さっすが騎士様、理解が早い!」
「……」
ソレイユの言葉に、手を叩いて賛辞するアフェリ。
しかしそれを見ているエトワルの態度は変わりません。
その様子をちらりとだけ見て、ソレイユは言葉を続けます。
「つまり、国から規制がかかっていて、新しい船の建造も所持も制限がある、と」
「素晴らしい! 騎士の旦那は」
「そしてお前はそれを打破する手を知っている。そうだな?」
「……っ……!」
「そうでなければここまで強気には出られない。その切り札は何だ?」
「……ははっ、それは行商人の宝だよ? おいそれと話すわけがな」
「命と宝。どちらが大事か。失ってみればわかるか」
言葉の途中で、アフェリの首元に刃物を当てるリュンヌ。
「ごごごごめんなさい! 何でも話しますから命だけは助けてください!」
「……」
ラテルはアフェリと仲間三人とのやり取りを見て、ただただ見守るしかできないのでした。
読了ありがとうございます。
行商人泣くべし。慈悲はない。
次話もよろしくお願いいたします。