第三十三話 舐められたくはありません!
女である事がばれないように、行商人のたわわな胸を見ていた事を認めたラテル。
すると行商人の矛先はラテルへと向かい……?
どうぞお楽しみください。
若干傷付いたラテルの前に、行商人はその大きな胸を机に置くように座ります。
「ねぇ僕ぅ。君はあたしの話を聞いてくれるぅ?」
「は?」
「あたしの持ってるじょ・う・ほ・う……。気にならなぁい?」
「……」
行商人の狙いが自分に変わったのを感じ、不愉快さを顔に出すラテル。
(……胸を見てたって言ったから、僕なら言う事聞くと思われてるのかな……。むぅ……)
女という事がばれないための発言だったとはいえ、胸の魅力に屈したと思われるのは不愉快でした。
それに、
(皆にえっちだと思われたらどうしよう……。三人とも優しく言ってくれたけど、心の中で軽蔑されていたら……!)
そんな焦りと不安が、更にラテルの気持ちを逆立てていきます。
「ねぇねぇ、あたしから情報買ってくれたらさぁ、おまけでぇ、い・い・こ・と教えてあげてもいいんだよぉ?」
「……!」
そんな高ぶった感情に、行商人の言葉が火をつけました。
「いい加減にしてっ!」
「!?」
「僕達は魔王退治に向かう勇者一行だ! 君の商売に付き合ってる暇なんかない! わかったらとっととどっかに行って!」
「ゆ、勇者一行……!?」
ラテルの怒りに満ちた言葉に、行商人は驚いた様子で居住まいを正します。
「し、失礼しました! あたし、そうとは知らなくて……!」
「えっ、何、急に……!?」
「あたし達行商人にとって、魔物は商売の一番の妨げなんです! だからその大元である魔王を退治してもらうのが念願で……!」
「そ、そうなんだ……」
「だから協力させてください! よろしくお願いいたします!」
「……」
態度の変化に驚きつつも、行商人の真剣な姿に怒りが消えていくラテル。
「……じゃあ」
表情を緩め、手を差し伸べようとしたその時です。
「待てよ。そこまで言うなら、まず情報を先に出しな」
エトワルがそれを遮りました。
「そうだな。信頼を求めるなら、先の無礼への詫びも含めて、持っている情報は開示するべきだろう」
「信じるかどうかはその後」
ソレイユとリュンヌもそれに続きます。
すると、
「……へっ、やっぱ簡単にはいかないか」
「!?」
殊勝な態度から一変した行商人に、ラテルは再度驚きました。
「いいからとっとと船の情報を教えな」
「さもなくば勇者一行を騙そうとした、と騎士団に突き出すぞ」
「逃げるのは不可」
「あいよあいよ。ま、勇者一行と縁が持てたご祝儀だと思って、話させてもらいますよ」
「……」
色気、真面目、そして不遜。
行商人の交渉術を目の当たりにして、ラテルはただただ目を丸くする事しかできないのでした。
読了ありがとうございます。
汚いさすが商人きたない。
次話もよろしくお願いいたします。