第十四話 初めての事はどきどきです!
仲間との絆を再確認したラテル。
一行は順調に旅を進め、国を出るための転移魔法陣へとやってきました。
そこはラテルには未知の領域で……?
どうぞお楽しみください。
ラテル一行は魔物を退治しながら、海際にある祠までやってきました。
ここには遠い地へと転移するための魔法陣があり、国から出るにはここを通らなければならないのです。
「僕、転移の魔法陣初めてだなぁ。ソレイユは使った事あるんだよね?」
「あぁ、私は外交の付き添いで何度も使っている」
「どんな感じ!? どんな感じ!?」
目を輝かせるラテルに、ソレイユは若干顔をしかめました。
「うーん……、個人差はあるが、めまいのような感覚があるからなぁ……。あまり楽しいものではないと思うぞ……」
「え、そうなの? ……僕、大丈夫かな……」
「人によるっつてんだから、やってみねーとわかんねーだろ。あんま気にしても仕方ねーぜ? ちなみに俺様は全然平気だ!」
「そ、そうだね」
エトワルの言葉に、ラテルの緊張が少し薄れます。
「自分も問題ない。もし具合悪くなったら背負う。安心して」
「……ありがとうリュンヌ!」
そんな事を話しているうちに、四人は魔法陣の前に着きました。
「ラテル、準備はいいか?」
「う、うん」
「とりあえず慣れてる旦那と俺様が先に行って、ラテルが続きな。そうすればもしあっちでぶっ倒れても、何とかしてやれるからよ」
「あ、ありがとう」
「最後に自分が行く。少し時間を空ける。慌てないで移動して」
「うん、わかった」
ラテルはごくりと唾を飲み込みます。
それは初めての転移に対する不安だけではありませんでした。
(ここで具合が悪くなって介抱なんかされたら、僕が女の子ってバレちゃうかもしれないもんね……。何とか踏ん張らないと……!)
気合いを入れるラテル。
「では向こうで待っているぞ」
その様子を見て頷いたソレイユが、まず転移の魔法陣に乗りました。
「わ、本当に消えた……!」
「ははっ、いいねぇその反応。俺様も初めて見た時はそんな感じだったぜ。びっくりしたし、不安もあったな」
「え? エトワルもそうだったの?」
「あぁそうさ。誰でも初めてのもんにはビビるもんだよ」
「そっか……」
「そういう時は、経験してる奴の言葉を信じるもんさ。そんで経験して乗り越えたら、それを初めての奴に教えていく。だから今の気持ちも大事にしとけよ?」
「! うん!」
不安な気持ちさえも肯定され、ラテルの顔に明るさが戻ります。
「ふふん……」
得意げに笑うと、エトワルは魔法陣に消えました。
いよいよラテルの番です。
「……よし!」
気合いを入れたラテルが魔法陣に足を乗せました。
すると目の前が一瞬真っ白になり、ラテルの身体を浮遊感が包みます。
(うわ……! 足元がなくなった感じ……。でも落ちてる風じゃない……。冷たくない水に入ったみたいだ……。いや、水より軽い……?)
いずれ初めての人に教えようと、感覚を言葉にしようとしていたラテル。
気がつけば身体の感覚は元に戻り、目の前にはソレイユとエトワルが立っていました。
「ラテル、大丈夫だったか?」
心配そうに問いかけるソレイユに、駆け寄ったラテルは元気に答えます。
「うん! あのね、エトワルが『今の不安は他の人の初めてに役に立つ』って言われたから、身近に初めての人がいた時のために、感覚を覚えようとしたんだ!」
「え、おま、俺様の言葉をそんな風に捉えたのかよ……。いや、別にいいんだけどよー……」
戸惑うエトワルを気にもせず、言葉を続けるラテル。
「そうしたら全然気持ち悪くならなくて、気が付いたら終わってたんだ! ありがとね、エトワル!」
「……ま、お前が良かったんならそれでいいんじゃねーの……」
エトワルは仮面で表情は見えないというのに、顔を隠すように背を向けました。
その様子に兜の中で小さな笑いを堪えたソレイユが、ラテルに暖かい声をかけます。
「……ラテルはすごいな。自分が初めてに挑む不安の中、他の人の事を考えれるなんて……」
「え? そ、そうかな……? へへへ、褒められちゃった……」
照れ臭そうに頭を掻くラテルの後ろに、リュンヌが魔法陣を超えて現れました。
「ラテル。無事」
「うん! 心配してくれてありがとうリュンヌ!」
「良かった」
「では行こうかラテル」
「こっからは魔物も全然違うから、気合い入れろよ?」
「大丈夫。ラテルならできる」
「うん!」
ラテルは元気に頷くと、魔法陣の祠から出ます。
そこにはラテルが知らない景色が広がっていました。
少しだけ身を強張らせるラテル。しかし、
(でも皆がいれば、きっと大丈夫!)
強い決意と信頼を胸に、新たな一歩を踏み出すのでした。
読了ありがとうございます。
封印? 魔法の玉?
何の事やらさっぱり……(震え声)。
国の玄関口ですから、開かれていて当然だと思いますよ?
次話もよろしくお願いいたします。