第十話 怖いけどちゃんと話します!
お風呂に入っていたラテルは、そうとは知らずに脱衣所に入ってきたソレイユに驚きます。
逃げ場のないラテルは女である事がバレる覚悟をしましたが、ソレイユはすぐに脱衣所を出ていきました。
助かったと思いながらも疑問が残るラテルは……?
どうぞお楽しみください。
ソレイユが去った脱衣所で、ラテルは大急ぎで身体を拭き、服を身に付けました。
その間も不安な気持ちが頭の中を駆け巡ります。
(何でわざわざ鎧を着直してまで、脱衣所を出てくれたんだろう……。僕が女の子って事に気付いてるのかなぁ……)
宿で部屋を分けようと言った事や、食事の時に胸に布を巻いていなかった事、そして今の過剰な反応。
考え始めると何もかもが失敗だったように思えて、胸がぎゅうっと苦しくなります。
(話した方がいいのかな……。でもまだ僕は勇者としての力を何も示せてない……。今話したら、勇者を交代させられるかも……)
鉛を飲み込んだように重い胸の中、ラテルは勇気を振り絞って顔を上げました。
(どうなるかはわからない! まずはソレイユとちゃんと話して、もし気付いているようだったら正直に話そう! その上で勇者を続けさせてもらうんだ!)
震えそうになる手をぎゅっと握り、ラテルは脱衣所の扉を開けます。
向かいの椅子にソレイユが腰掛けて待っていました。
「ご、ごめんね。お待たせ……」
「いや、私こそ確認を怠り、驚かせて悪かった……」
「……」
「……」
二人の間に重い沈黙が流れます。
(うー……、気まずいよぉ……。部屋に戻っちゃおうかな……。でもこんな不安を抱えたままじゃ寝れそうにないし……)
そう考えたラテルは、意を決して口を開きました。
「ソレイユさ、な、何か僕の事で気にしてる事とかある?」
「! き、気付いていたのか!?」
驚き、椅子を立つソレイユ。
その動きに驚きながらも、ラテルはこくんと頷きました。
「う、うん、何となく……」
「そう、か……。聞きづらい事ではあったので、それとなく確認しようと思っていたのだが……」
ソレイユの言葉に、ラテルの喉が鳴ります。
お腹に力を入れて、震えそうになる身体を抑えました。
「……聞いてくれていいよ。答えられる事は、ちゃんと答えるから……」
「……ありがとう」
ソレイユは兜の中でふーっと息を吐くと、大きく息を吸い込みます。
そのままラテルを真っ直ぐに見つめ、
「私の事が怖いだろうか……?」
思いの丈を吐き出しました。
「へっ!?」
思いもしなかった言葉に、目を丸くするラテル。
先程までの緊張はどこかへ行ってしまいました。
「な、何でそんな風に思うの!?」
「……部屋を分けたいと言った時から、いや最初から不安だった……。今日陛下から同行を指示されただろう? 知らない人と旅をするのは怖いのではないかと……」
「そんな事ないよ! 仲間探しの時も、ここまでの、短い旅だけど、ずっと優しく見守ってくれてたもん! 怖いなんて全然思ってない!」
ラテルの力強い言葉に、ソレイユの声に明るさが少し戻ります。
「……そう、なのか……?」
「うん! むしろすっごく頼りにしてる!」
「……そうか……。うん、私の考え過ぎだったようだ。ありがとうラテル」
「こちらこそ! これからもよろしくね!」
「あぁ!」
ラテルが差し出した手を、ソレイユが優しく、しかし強く握りました。
同時にふふっと微笑み合うと、静かに手が離れます。
「ではお風呂をいただくとしよう」
「うん! 広くてすっごく気持ち良かったよ!」
「それは楽しみだ」
「ゆっくり浸かってね! じゃあおやすみー!」
「あぁ、おやすみ」
不安から解消された反動でご機嫌のラテルは、ぶんぶんと手を振りながら廊下の角に消えていきました。
それを見送ったソレイユは、脱衣所に入ると兜を外し、大きく息を吐き出します。
それは安堵とも後悔ともつかない、複雑なものでした。
「……ラテルが強く優しい子でよかった。そうでなければ私は……」
ソレイユは兜を持つ手に力を込めます。
「……いずれ明かさなければならないとしても、今はまだ……」
もう一度大きく息を吐くと、ソレイユは鎧を外し、浴室で身体を洗うと、湯船に身を任せるのでした。
読了ありがとうございます。
何とか危機を脱したラテル。
いよいよ本格的な旅へと進みます。
次話もよろしくお願いいたします。




