宇宙で一番いらないこ
見ると周囲の雑草が朋の脚に絡まっている。どう見ても自然にこんなことが起こるとは思えない。
「どういうこと! あなた何者なの!」
朋は地べたに尻もちをつきながらも、男の方へ向き直った。青い目を睨みつける。
『殺しはしない。取って食おうというわけでもない』
相変わらず口を閉じたまま、しかし頭のすぐ横に響く声で男は言った。
「ヘンタイじゃないって言いたいわけ? なら何。いったい何の用よ!」
朋は男から目をそらさず問う。
『お前の両の目玉が欲しいだけだ。えぐったらすぐに去るから安心しろ』
「ちょっ! 本物の犯罪者じゃない!」
思ってもみない返答に朋は仰天した。殺さないが両目をえぐる? そんなの殺されるのとどれほどの差があるというのだ。
朋は青くなりながら後ずさりしようとする。だが雑草に阻まれてそれすらままならない。
(何よ! 絶体絶命じゃない!)
男はのろのろと近づいてくる。
朋の頬を冷たい汗が幾筋もこぼれていく。
(考えろ私!)
空が破れて大粒の雨が降り出した。
雨はとても冷たい。しかしそれも気にならない程、体は熱くほてっている。
(こんなところで、こんなよく分からない理由で、いいように傷つけられてたまるか!)
朋は考えた。頭の中がちりちりと焦げるようだった。
(これしか、ないか)
朋は横に転がっていたカバンをひっくり返すと中身をぶちまけた。そこからペンケースを取り出すとシャーペンを掴む。
(こんなの全然、何の解決にもならないけど)
それ以外何も思い浮かばなかった自分に自嘲の笑みがこぼれる。
(でもただ黙ってるよりはずっとマシなはず)