宇宙で一番いらないこ
もし人だったら救急車を呼ばなくては。そう思いながら朋は空き地の中へ駆け込み、その黒い塊に近づく。
「あの!」
近づくと、たしかにそれは人だった。黒いマントのようなものを着て地面にうずくまっている。マントの裾からはシューという音とともに白い煙が上がっていた。
だがその人物は、無事だった。朋が近づくとすっくと立ち上がる。
朋は驚いてそれ以上近づくのをやめた。
男性だった。黒いマントを着ている時点で明らかに普通ではないが、人を射るように向けてきた目が、鮮やかな青色をしていたことが、朋をさらに警戒させた。
『女』
耳元で、いやそれよりももっと近くで、突然声が聞こえた。
耳がおかしくなったのだろうか。朋はびくりとして両耳に手を当ててみる。しかし何も異常はない。
まるで頭の中に直接声が響いたようだった。
『お前は』
再び同じように声が響く。
この目の前にいる男が喋ったのだろうか。だが男は口を全く動かしていない。とすればこの声は一体何なのだろう。
朋が何もできずに立ち尽くしていると、声は続けた。
『お前は、汚れ知らぬ清らかな乙女か』
「ヘンタイだ!」
朋は踵を返すと一目散に走りだした。
(何なの今日は! まさに厄日だわ!)
心の中で叫びながら空き地に生えた雑草をかき分けて進む。
『逃がさん』
後ろで男が片手を上げる気配がした。すると突然足元に何かが引っ掛かり、朋は勢いよく前方へ転んだ。
(何⁈)