宇宙で一番いらないこ
「せっかく高校は地元から遠いところにしたのに! 全く意味がないじゃない!」
猫カフェで黒い子猫を撫でながら朋は声を荒げた。
ビクビクしながら唯則がサービスでコーヒーを入れてくれる。
「朋、人当たりいいのにね。どうしてだろ」
「とか言いつつ、中学も高校もいじめられるなんて、私に問題があると思ってるんでしょ!」
「思ってないよ!」
「そういう疑り深いところが嫌われるんだ、 って思ってるんでしょ!」
「だからそんなことないったら!」
青くなって首を振る唯則を放って、朋は頂いたコーヒーにありがたく口をつけた。十二月の風にさらされて冷え切った体に、温かさが滑り込んでいく。
茶化して言ってみたものの、それは実は朋自身が思っていたことだった。
(やっぱり私は人と暮らすようにできていないのかもしれない)
その時、ふわふわとした温もりを感じた。
見ると、膝に乗せていた子猫が、慰めるように腕に体をこすり付けている。
「ありがとう。優しいね」
頭を撫でると子猫はおとなしく目を細めた。
「子猫がいるなんて珍しい。いつもすぐに貰われちゃうじゃない?」
この猫カフェは様々な事情で飼い主がいなくなった猫と、猫を飼いたいという人を結びつける保護猫カフェだ。
年を取ってしまった猫より、幼く小さい子猫のほうが人気だ。子猫がやってくるとカフェデビューより前に貰われていくケースもある。
「でもそいつ、片足が不自由なんだ」
唯則が暗い声で言った。
確かに子猫には前脚の片方が無い。
「だから多分、そいつはうちの猫になると思う」
「はぁ? それが何だっていうの。だって自分で歩けているし、顔だってとっても可愛いじゃない」
「それはそうなんだけどさ……」
歯切れの悪い唯則の言葉に朋は子猫の顔を見る。