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その夜。
勇者は、自分が泊っている高級宿の隣の部屋にラリサを泊まらせた(魔王討伐の報奨金として多額の金を貰っている勇者は、一戸建ての家を建てようと思えば余裕で建てられるが、魔王の呪いが発動したため、折角立てた自分の家が血塗れになって行くのを想像して、げんなりし、高級宿にて生活する事に決めたのだった)。
モンスターと同じ部屋などに泊まりたくは無いし、出来れば少しでも離れた場所に泊まらせたかったが、何かあった時に直ぐに駆け付けられる場所にいるべきだ、という理性が働き、そのようにしたのだった。
高級宿の一階にはレストランがあり、その分の料金も払っているため、朝・昼・晩と、いつでも自由に食事が出来る。
尚、勇者はラリサとは別々に食事を食べた。
他者に触れられる事も触れる事も出来ないラリサだが、〝物体〟であれば、自分を傷付ける可能性がある物以外は――より正確には可能性が〝高い〟物以外は――触る事が出来るのだ。よって、食べ物に触れて食べる事は出来るし、飲み物を飲む事も問題なく出来る。
そして、武器を持てないラリサだが、食事用のナイフとフォークは、辛うじて持つ事が出来るらしく、それらを使って食事した。
ちなみに、ラリサが現れてから数時間の間、他のモンスターが出現しなかったため、「これって、もしかして、コイツがまだ俺に殺されていないから、他のモンスターが送られて来ないって事なんじゃないか!?」と、喜んだ勇者だったが、夜には、いつも通り他のモンスターが空間転移されて来て、糠喜びであった事が判明して、ショックを受けた。
そして、いつも通り、〝右手に聖剣を持った状態で、ベッドの右端から右腕をだらりと下げて、空間転移されて来るモンスターを寝たまま反射的に斬り殺す〟という事を無意識に行い続けた。
尚、高級宿だけあって、水属性の魔力を持つ魔石を嵌め込んだ魔導具による水洗トイレと、水属性の魔力を持つ魔石と炎属性の魔力を持つ魔石の両方を嵌め込んだ魔導具による風呂が各部屋に完備されているのだが、何度手や身体を洗おうが、モンスターが引っ切り無しに来るため、余り意味は無い。
更に、トイレや風呂に入っている最中でも、容赦なく襲い掛かって来るので、部屋の中のみならず、トイレや風呂もいつも血だらけだった。