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エピローグ

 暫くして、ラリサが落ち着きを取り戻すと。

 勇者は結界を解除して、空間転移魔法で、王都の大通りへと戻った。

 手を繋いで歩きながら、ラリサが訊ねる。

「そう言えば、何で自分は助かったんすか!?」

 その問いに、空間転移して来るモンスターを一瞬で切り伏せながら、勇者が、

「それはな――」

 と答えようとしたが、その言葉は、

「愛の力っすね! やっぱり!」

 というラリサの声で遮られた。

 ラリサは、興奮気味に捲し立てる。

「勇者さんは、自分の事を、『好きな女』って言ってくれたっす! それに、『俺の女を、泣かせてんじゃねぇ!』って叫んでくれたっす! すごく嬉しかったっす!」

 だが、勇者は、

「そんな事言ったっけ?」

 と、つれない。

 ラリサは、

「何言ってるんすか!? 言ったじゃないっすか! むしろ大声で叫んだじゃないっすか!」

 と噛み付くが、勇者は、

「いや、覚えが無いなぁ」

 と、惚ける。

「何すかそれ!? 何でそんな意地悪するんすか!?」

 と、ラリサがギャーギャー叫ぶが、勇者はそれを無視すると、

「お前が助かった理由。――それは、お前が〝サキュバス〟だからだ」

 と言った。

 その言葉に、人目も気にせず喚き散らしていたラリサが、きょとんとする。

「サキュバス……っすか!? 自分が!?」

 いまいちピンと来ていないラリサに、勇者は頷いた。

「正確には、〝ハーフサキュバス〟だけどな。その尻尾の先端の形と、蝙蝠みたいな翼、そしてその角が証拠だ。お前の母親がサキュバスで、その血を半分受け継いでいるから、〝ハーフサキュバス〟だ」

 ラリサは、説明を聞いても、目をパチクリさせている。

 どうやら、想定外の指摘だったらしい。

 尚、尻尾は以前のように、しまおうと思えばドレスの中にしまえるが、翼に関しては、大き過ぎて、流石にドレスの中にしまう事は出来ないため、勇者が角・翼・尻尾に対してまとめて認識阻害魔法を掛けて、周囲の者たちからは見えないようにしている。

 ラリサは、

「自分が〝ハーフサキュバス〟だとして、それと自分が助かったのと、どう関係があるんすか?」

 と、小首を傾げた。

 勇者は、答えた。

「他者に触れて精気を吸い取るのが、サキュバスだ。だけど、お前は呪いのせいで、生まれてから十六年間、誰にも触れる事が出来なかった。そのせいで、全く精気を吸い取る事が出来なかったんだ。サキュバスの力の源である精気を得る事が出来ない場合、多少なら、ちょっと魔力が低下する程度で済むかもしれないが、それが続けば、生死に関わって来る。むしろ十六年間も、よく精気無しで生き続けられたよな。もしかしたら、純血のサキュバスじゃなくて、ハーフサキュバスだったのが幸いしたのかもな。何れにしても、それで、さっき俺と触れ合った時に、俺から精気を吸い取って、身体が復活したんだ」

 ラリサは、

「そうだったんすね……知らなかったっす……」

 と呟いた。

 そして、

「勇者さんは、最初から気付いてたんすか?」

 と聞いた。

 勇者は、首を振った。

「いや、俺が気付いたのは直前――呪いを破壊した後だ。しかも、多分サキュバスだろうけど、もしかしたら、ヴァンパイアかもしれないとも思っていた」

「ヴァンパイアっすか!?」

「そうだ。でも、それならそれで、キスした瞬間に、本能的に俺の唇に噛み付いて血を飲むだろうから、それで復活してくれれば良い、と考えたんだ」

 ラリサは、

「そういう事だったんすね……」

 と言うと、

「精気を吸われて、勇者さんは大丈夫なんすか?」

 と、心配しながら言った。

 勇者は、

「俺は無敵の勇者様だからな。あんなの、どうって事ない」

 と、口角を上げた。

「それなら、良かったっす」

 と、胸を撫で下ろすラリサに、勇者は、

「それより、俺も一つ聞きたいことがある」

 と言った。

 ラリサが、

「何すか?」

 と言うと、勇者は、

「精気が足りなくてお前が消え掛けたのは、分かった。でも、何でお前の服と靴は、お前と一緒に消えて、お前と一緒に復活したんだ?」

 と質問した。

 ラリサは、

「ああ、それはっすね」

 と言うと、説明した。

 ラリサの黒ドレスと靴は、ラリサの母親が物体創造魔法によって創ったものだったらしい。

 本来、物体創造魔法で創った物は、術者が死んだ後も存在し続ける。

 しかし、サキュバスであるラリサの母親は、物体創造魔法が得意ではなく、黒ドレスと靴は、本人が死ねば創った物も消えてしまう、という類のものだった。

 そこで、ラリサの母親は、黒ドレスと靴が帯びた魔力をラリサの魔力と結び付けた。

 それによって、〝母親である自分が死んでも消えず、ラリサが死ぬまで消えない〟ドレスと靴にする事が出来た。

 そのため、ラリサが足元から消え始めた際、ドレスと靴も共に消えて行き、その後、ラリサと共に復活したのだった。

 ラリサは、

「一旦脱いで置いておく、という事も、今では出来るようになったっす! 最初は無理だったっすけど」

 と、薄い胸を張り、得意気に言った。

「へぇ~」

 と、勇者は言った。

(当たり前だが、まだまだコイツに関して知らない事はたくさんあるな)

 と思った勇者は、

(……知らない事……言ってない事……)

 と、何かに思い至り、

「あ、そう言えば」

 と呟き、続けて言った。

「まだ教えてなかったな。俺の名前は、ヴィンスだ」

 予想外の言葉に、ラリサは驚き、

「え?」

 と、目を見開いた。

『呪術魔法に使われる可能性があるからな』

『冒険者パーティーの仲間たち以外には教えていない』

『ましてや、モンスターなんかに教える訳が無い』

 そう言っていた名前を、あっさりと、自分に教えたのだ。

 ラリサは、おずおずと、

「ヴィンス……さん……」

 と、勇者の名を呼んだ。

 勇者は、

「呼び捨てで良い。さんは要らん」

 と言った。

 ラリサは、 

「わ、分かったっす!」

 と頷くと、

「じゃあ、早速……ヴィ、ヴィンス……」

 と勇者の名を呼ぶと、頬を紅潮させた。

 それを見た勇者は、

「サキュバスの癖に、男の名前呼び捨てにしただけで赤くなってんじゃねぇよ」

 と、言った。

 ラリサは、

「なってないっす! こ、これはその……そう! 男を誘うための作戦っす! サキュバスの色仕掛けっす!」

 と、必死に言い訳する。

「『そう!』て、お前。明らかに今思い付いただろ」

 と突っ込む勇者に、ラリサは、

「うるさいっす! 色仕掛けったら色仕掛けっす!」

 と、強情に言い張る。

 勇者は、

「色仕掛けねぇ……。色気ゼロのお前が、どうやってやるんだ?」

 と言った。

「酷いっす! 自分、ちゃんと、色気あるっす! むしろ、溢れまくりっす!」

 と、ラリサが言うと、勇者は、

「へぇ~。どの辺に色気があるんだ?」

 と、聞いた。

 ラリサは、自分の慎ましい胸を見下ろしながら、

「ん~と、ん~と……」

 と必死に思考した。

 そして、

「あ!」

 と、何かを思い出した。

 ラリサは、先程までとは打って変わって、

「ふっふっふ~」

 と、不敵な笑みを浮かべると、こう言った。

「自分の巨乳で、メロメロにしてやるっす! 覚悟するっす、ヴィ、ヴィンス!」

 まだ名前で呼び慣れていないためか、ラリサの頬はほんのりと赤い。

 勇者は、

「とうとう現実逃避し始めたか……」

 と、呆れながら呟いたが、ラリサは不遜な態度を崩さない。

「どうやら、知らないみたいっすね! サキュバスは、成長すると、全員巨乳になるんす!」

 自信満々で言うラリサに、勇者は、「へぇ~」と呟いた後、

「成長するとって、いつ頃そうなるんだ?」

 と、訊ねた。

 ラリサは、

「聞いて驚くっす!」

 と言うと、

「自分が牢屋に閉じ込められていた時に、見張り役のモンスターたちが言ってた情報っすけど、間違いないっす!」

 と続けた。

 勇者は、

(恐らく、サキュバスであるラリサの母親とハーフサキュバスであるラリサを見ながら、話していたんだろうな)

(って言うか、そういや、サキュバスは長命な種族だったな)

 と思いつつ、嫌な予感がした。

 すると、その予感は的中し、ラリサは、こう言った。

「五十歳から胸が大きくなるっす!」

 勇者は思わず、

「あと三十四年て、待てるか! んなもん!」

 と、勢い良く突っ込んだ。

 が、その瞬間――

(あ……)

 勇者は、今までデートして来た少女たちとの会話を思い出した。

『その内、モンスターが全部いなくなるまでの辛抱だから! 頼む! あと十年待ってくれ!』

『そんなの、無理いいいいいいいいいいい!』

(そりゃ、そうだ)

(そりゃ、待てないよな)

 そして、ラリサを見詰めつつ――

この気持ち(・・・・・)がなきゃ、待てる訳が無いよな)

 ――と思いながら、自分の胸に右手を当てた。

 見詰められたラリサが、

「ん? どうしたんすか?」

 と小首を傾げながら聞くと、勇者は、

「いや、何でもない」

 と答えた。

 そして、

「それにしても、お前、名前を呼ぶだけで顔が赤くなるって……サキュバスとしてどうなんだ?」

 と、改めて突っ込んだ。

「う、うるさいっす!」

 と言うラリサに対して、勇者は、口角を上げて言った。

「こんなんじゃ、夜の生活は俺の独壇場だな。お前はただの女と何も変わらない。組み敷いて、ヒーヒー言わせてやる」

「なっ!? 何を言ってるっすか!? ヴィ、ヴィンスなんて、サキュバスの超絶テクニックで、足腰立たなくしてやるっす! それで、精気吸いまくって、泣きながら「もう許してくれ」って言っても、止めてあげないっす!」

「やってみろよ。返り討ちにしてやる」

「やってやるっす! 覚悟するっす!」

 そんな会話をしつつ、相変わらず空間転移して来るモンスターを瞬時に倒しながら、勇者はラリサと共に、王都の大通りを歩いて行った。

 いつものように、モンスターの返り血を浴びながら。

 そして、一切返り血がつかないように既に防御魔法を掛けているラリサに、出来るだけ返り血が飛ばないように気遣いながら。

 騒がしく歩いて行く二人の手は――

 ――互いの指が交差する形で、しっかりと握られていた。


―完―


最後までお読みいただきありがとうございました! お餅ミトコンドリアです。


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