52
その後。
二人は、大通りを無言で歩いた。
ラリサは、ジュディに貰った菓子を食べながら。
勇者は、至近距離に空間転移して来るモンスターを一瞬で一刀両断しながら。
暫くして、大分落ち着いた様子のラリサは、いつもの明るさを取り戻した。
そして、勇者と共に、様々な店を巡った。
レストランに入り、お茶をしながら、勇者が、
(そろそろだな……)
と思った直後――
「あそこに行きたいっす」
と、ラリサが言った。
ラリサが行きたいと言った場所。
そこは――
「何でここなんだ?」
――二人が初めて出会った場所だった。
「俺はお前を……攻撃したんだぞ?」
〝殺そうと〟という言葉を呑み込み、違う表現をした勇者に対して、ラリサは、
「それでもっす! 自分にとっては、大切な場所っす!」
と、言った。
そして、
「あれから、まだ一ヶ月しか経ってないんすよね……。……何だか、もっと昔のことみたいっす……」
と、穏やかな表情を浮かべた。
勇者も、
「そうだな……」
と、呟いた。
(本当に、色んな事があった)
(初めは、こんな風になるなんて、夢にも思っていなかった)
そう心の中で呟く勇者。
暫く感慨に耽っていたラリサだったが、目を閉じて、ゆっくりと開くと――
「……お待たせっす……。……そろそろっす……」
と、勇者を見た。
空間転移して来るモンスターたちを瞬時に聖剣で倒していた勇者は、
「……分かった……」
と答えると、ラリサと手を繋ぎ、
「『空間転移』」
と呟いた。
次の瞬間――
勇者たちは、山の山頂にいた。
一人になりたい時に勇者が来る場所だ。
周囲を見回した勇者は、
(アイツ……気を遣ってくれたんだな……)
と思った。
前回、ジュディとここで会った時は、倒したモンスターの死体をそのままにして、ジュディの店へと空間転移した。
しかし、モンスターの死骸はどこにも見当たらない。
どうやら、ジュディが気を利かせて、全て魔剣で燃やし尽くしてくれたようだ。
最後にここに来る事を、勇者は決めてあった。
ラリサと事前に、最後は二人きりになれる場所に行こう、と話し合っていたからだ。
勇者が、両手を翳すと――
――球体形の光が二人を包み込んだ。
「結界だ。モンスターはこの中には入って来られない」
と勇者が言うと、
「ありがとうっす!」
と、ラリサが言った。
その結界は、空間転移そのものは防げないものの、空間転移して来るモンスターがこの中に入る事を妨害出来、しかも、常時外側の表面に最上級雷魔法が流されているため、侵入しようとして触れれば、強力な雷撃を食らい、大抵のモンスターであれば即死する、という優れた代物だった。
尚、普段は魔力消費を出来るだけ抑えるために、使用していなかった。
ラリサは、勇者を真っ直ぐに見詰めて、言った。
「勇者さんと出会えて、良かったっす。勇者さんとたくさんデート出来て、嬉しかったっす。自分、幸せっす」
そう言って微笑むラリサの――
「美味しいご飯を一緒に食べて、お菓子を食べて、お茶をして。一緒にたくさんお話しして、楽しかったっす」
――身体が――
「一緒に手を繋いで、街中を歩けたっす」
――靴もろとも――
「腕枕もして貰えたっす」
――足元から、少しずつ消えて行く。