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 その後。

 二人は、大通りを無言で歩いた。

 ラリサは、ジュディに貰った菓子を食べながら。

 勇者は、至近距離に空間転移して来るモンスターを一瞬で一刀両断しながら。


 暫くして、大分落ち着いた様子のラリサは、いつもの明るさを取り戻した。

 そして、勇者と共に、様々な店を巡った。

 

 レストランに入り、お茶をしながら、勇者が、

(そろそろだな……)

 と思った直後――

「あそこに行きたいっす」

 と、ラリサが言った。


 ラリサが行きたいと言った場所。

 そこは――

「何でここなんだ?」

 ――二人が初めて出会った場所だった。

「俺はお前を……攻撃したんだぞ?」

 〝殺そうと〟という言葉を呑み込み、違う表現をした勇者に対して、ラリサは、

「それでもっす! 自分にとっては、大切な場所っす!」

 と、言った。

 そして、

「あれから、まだ一ヶ月しか経ってないんすよね……。……何だか、もっと昔のことみたいっす……」

 と、穏やかな表情を浮かべた。

 勇者も、

「そうだな……」

 と、呟いた。

(本当に、色んな事があった)

(初めは、こんな風になるなんて、夢にも思っていなかった)

 そう心の中で呟く勇者。

 暫く感慨に耽っていたラリサだったが、目を閉じて、ゆっくりと開くと――

「……お待たせっす……。……そろそろっす……」

 と、勇者を見た。

 空間転移して来るモンスターたちを瞬時に聖剣で倒していた勇者は、

「……分かった……」

 と答えると、ラリサと手を繋ぎ、

「『空間転移(ワープ)』」

 と呟いた。


 次の瞬間――

 勇者たちは、山の山頂にいた。

 一人になりたい時に勇者が来る場所だ。

 周囲を見回した勇者は、

(アイツ……気を遣ってくれたんだな……)

 と思った。

 前回、ジュディとここで会った時は、倒したモンスターの死体をそのままにして、ジュディの店へと空間転移した。

 しかし、モンスターの死骸はどこにも見当たらない。

 どうやら、ジュディが気を利かせて、全て魔剣で燃やし尽くしてくれたようだ。

 最後にここに来る事を、勇者は決めてあった。

 ラリサと事前に、最後は二人きりになれる場所に行こう、と話し合っていたからだ。

 勇者が、両手を翳すと――

 ――球体形の光が二人を包み込んだ。

「結界だ。モンスターはこの中には入って来られない」

 と勇者が言うと、

「ありがとうっす!」

 と、ラリサが言った。

 その結界は、空間転移そのものは防げないものの、空間転移して来るモンスターがこの中に入る事を妨害出来、しかも、常時外側の表面に最上級雷魔法が流されているため、侵入しようとして触れれば、強力な雷撃を食らい、大抵のモンスターであれば即死する、という優れた代物だった。

 尚、普段は魔力消費を出来るだけ抑えるために、使用していなかった。

 ラリサは、勇者を真っ直ぐに見詰めて、言った。

「勇者さんと出会えて、良かったっす。勇者さんとたくさんデート出来て、嬉しかったっす。自分、幸せっす」

 そう言って微笑むラリサの――

「美味しいご飯を一緒に食べて、お菓子を食べて、お茶をして。一緒にたくさんお話しして、楽しかったっす」

 ――身体が――

「一緒に手を繋いで、街中を歩けたっす」

 ――靴もろとも――

「腕枕もして貰えたっす」

 ――足元から、少しずつ消えて行く。

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