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そして、現在。
至近距離――左前方に現れた、人間ほどの大きさのある魔兎を一瞬で一刀両断しつつ、フラフラと勇者が大通りを歩いて行く。
思い出したかのように、勇者は、
「『水』」
「『風』」
「『熱』」
と、水魔法、風魔法、炎魔法(の応用)を立て続けに唱え、自分の全身に水を掛けて返り血を洗い流しつつ、熱風で一気に服を乾かした。
(こんな事しても、また直ぐ血塗れになるんだけどな)
と思って、勇者はまた溜息をつく。
尚、勇者の身体能力ならば、返り血を避ける事は可能だ。
更に言えば、防御魔法を使えば、避けようとせずとも、返り血がつかないようにする事が出来る。
だが、勇者は毎回、〝デート相手の女の子〟の事を最優先で考えているのだ。
まずは、突如現れるモンスターを倒しつつ、咄嗟に女の子に対して防御魔法を使って、返り血がつかないようにしている。
それならば、「自分と女の子の両方に防御魔法を使えば良いのではないか」、とか、「常に防御魔法を使い続ければ問題は解決するのではないか」、と思われるかもしれない。
しかし、並の魔法使いに比べて莫大な魔力を誇る勇者も、無尽蔵にある訳ではなく、いついかなるモンスターが出現するか分からない中、無駄に浪費する訳にはいかないのだ。
低級モンスター、中級モンスターならいざ知らず、上級モンスター、更に最上級モンスターが現れれば、流石の勇者も、多少は本気を出さないと倒せない。
そのため、勇者は、体力も魔力も、出来るだけ温存するようにしていた。
その結果、毎回、自分は血塗れになる、という事態になっていた。
(あと十年、俺はこんな生活を続けるのか……)
と、本日何度目になるか分からない溜息をつきながら勇者が大通りを歩いて行くと、今度は、右前方にモンスターが出現した。