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翌日。
王都の大通りに面したレストランでランチを一緒に食べた勇者は、ラリサと共に、他国に出掛ける事にした。
本当は、これから数日間は、朝から晩までずっとデートをしようと思っていたのだが、ラリサが、大喜びした後に、「あ」と、何かに気付き、「やっぱり、全部昼からにして貰って良いっすか?」と、言ったのだ。
無理強いは出来ないため、勇者は、それで承諾した。
そして、現在。
レストランを出た勇者は、
「じゃあ、行くぞ」
と言うと、左腕でラリサの身体を抱えた。
いつも通り、透明且つ冷たい無機質な金属のような感触に遮られて、直接触れてはいないが、傷付けようとする行動ではないために弾かれる事は無く、勇者はラリサを抱える事が出来た。
「え?」
背後から腹部の方へと手を回されて抱き抱えられて、戸惑うラリサ。
勇者が、
「『空間転移』」
と呟いた、次の瞬間――
「わぁ……!」
――ラリサは、思わず感嘆の声を上げた。
そこは、〝水の都〟として知られる、ローズディアス王国の王都――の上空だった。
中央に湖があり、その中心に高台があり、その上に王城がある。
魔法によるものなのか、王城からはところどころ水が流れ落ちており、陽光に照らされて煌めきつつ、湖へと流れ込んでいる。
そして、王都全体に幾つもの川が流れており、青く美しい線を描いていた。
勇者は、ラリサを抱えながら空中に静止したまま、
「これが、ローズディアス王国の王都だ。水の都として有名な街だ」
と言いながら、至近距離に空間転移して来たモンスターを、炎魔法により瞬時に燃やし尽くした。
自分が暮らす国ではないため、流石に地上に降りて王都内に入ってしまうと、モンスターが出現した際に大騒ぎになってしまうので、こうして、上空へと空間転移したのだ。
ラリサは、
「すごいっす! めっちゃ綺麗っす!」
と、興奮した様子で、声を弾ませた。
それを見た勇者は、満足そうに微笑んだ。
そのようにして、勇者は、次々と、世界中の国々の王都の上空へと空間転移して行った。
その度に、ラリサは歓声を上げた。
この日――ラリサが死ぬ四日前から、死ぬ二日前まで、勇者は、様々な場所へとラリサを連れて行った。
常に雪が降り続けている白銀の豪雪地帯へ行き、雪で遊んだ。
一年中凍っている巨大な湖へと行き、その上で滑って楽しんだ。
いつ見てもマグマが溜まっている火山の火口へ行き、その迫力に息を呑んだ。
尚、豪雪地帯などの寒冷な場所やマグマが溜まっている火山の火口は、どちらも耐性が無い生物にとっては留まるだけで命の危険が伴うが、ラリサは呪いにより自動的に守られて、適温に保たれた空気が常に身体を包んでおり、勇者は勇者で、寒さに対しては炎魔法と風魔法を応用して常に温かい空気で自分自身を包み、逆に暑さに対しては、氷魔法と風魔法を用いて常時冷たい空気で自身を覆って、凌いだ。
ある時は、空間転移した先が、海の中だった。
色鮮やかな珊瑚礁に、黄色、オレンジ、ピンク、ブルーなどの、綺麗な魚たちがキラキラと輝きながら、ゆったりと泳いでいる。
やはりラリサは、呪いにより周囲を空気で覆われて、問題なく呼吸が出来、勇者は、風魔法を応用して、同様に自身を空気で包んで、美しい光景に目を細めた。
ちなみに、近くに空間転移して来るモンスターたちは、元々海のモンスターが少ないために、水中で呼吸が出来ない者たちばかりで、勇者が手を下すまでも無く、窒息して死んで行った。
また、ある時は、雲の上へと空間転移した。
飛び降りたら、柔らかく受け止めてくれるのではないかと思えるような、真っ白でフワフワな絨毯のように見える雲を見下ろしつつ暫く飛翔して行くと、太陽が沈み始めた。
その夕陽は、今まで見たどの太陽よりも綺麗で、思わず、溜息が出てしまう程だった。
尚、突如至近距離に空間転移して来たモンスターたちは、何もせずとも落下して、地面に激突して息絶えて行った。
勇者たちは、キングヘイズ王国王都で昼食を食べた後に空間転移魔法で移動し、美しい景色などを存分に楽しんだ後、暗くなる頃には王都に戻り、夕食を一緒に食べた。
ちなみに、ラリサが、こんな事を言ったことがあった。
「あの……勇者さん……。……出来ればで良いんすけど、出来たら……時間がある時に、大通りの露店で、一人でお菓子を買ってみたいなぁ……なんて思ったりするっす……。だから、一人でも買い物が出来るように、自分に、その……ほんの少しだけ……欲しいなって思ったりするっす……」
おずおずと切り出したラリサに、勇者は、
「ん? 金か? 良いぞ」
と軽く答えて、ラリサに銀貨を一枚渡した。
「それとも、こっちにしとくか?」
と、胸元から金貨を取り出す勇者に、ラリサは、ブンブンと首を振り、
「ぎ、銀貨で大丈夫っす! ありがとうっす!」
と、礼を言った。