表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/55

46

 魔法を発動した勇者は――

「……ラリサ……」

 ――ジュディの武器屋に空間転移した。

 突如、店の中央に現れた勇者に、

「勇者さん!」

 と、ラリサが声を上げて、カウンター内の椅子から立ち上がる。

 勇者は、ラリサと目が合うと、直ぐに視線を逸らした。

 すると、ラリサは、

「勇者さんの戦いの邪魔をして、ごめんなさいっす!」

 と、頭を下げた。

 ジュディから『あんたに対して怒ってるんじゃないわ』とは聞いたが、自分の行動のせいで勇者が怒った事には、間違いないのだ。

 だから、ラリサは、勇者に対して改めて謝罪した。

 それを見た勇者は、

「いや、違うんだ……お前は何も悪くない……。むしろ、俺を庇ってくれた。助けてくれたんだ」

 と言うと、

「それなのに、怒鳴ったりして……すまなかった」

 と、謝った。

 ラリサは、顔を上げると、

「自分は大丈夫っす! 勇者さんとまたこうして話せて、嬉しいっす!」

 と、笑みを浮かべた。

 その笑顔を見て、勇者は、胸が締め付けられた。

 勇者は、至近距離に空間転移して来たモンスターを炎魔法で一瞬で灰にして、

(あと五日で、コイツは……)

 と思いながら、気付けば――

「もう直ぐ、死ぬんだぞ? お前、怖くないのかよ?」

 ――と、聞いていた。 

 ラリサは、俯いて、

「……そりゃあ勿論、怖いっすよ」

 と呟くと、顔を上げて、穏やかに微笑むと、ゆっくりと、カウンターの外へ歩いて行く。

「でも、自分、ずっと独りぼっちだったっす。たった一人傍にいてくれたお母さんも死んじゃって、仲間であるはずのモンスターたちからは、〝忌み子〟だからって、怖がられて、誰も近付いて来なかったっす。そんな自分だけど、勇者さんが、すごく優しくしてくれたっす! 憧れだった勇者さんと、たくさんデート出来たっす! すごく楽しかったっす! こんな自分でも、普通の女の子みたいに、幸せな経験をたくさん出来たっす! だから、自分、すごく幸せっす。こんな温かい時間を過ごせるだなんて、夢みたいっす。だから、大丈夫っす」

 そう言って、勇者の前まで歩いて来たラリサの微笑みに、勇者は、苦しそうな表情を浮かべる。

 そんな勇者の様子を見たラリサは、抑え込んでいた感情が溢れ出て思わず泣きそうになってしまい、慌てて堪えた。

 ダメっす! 自分は、すごく幸せなんすから! 泣いたりしたら、ダメっす!

 と、自分自身に言い聞かせつつ、ラリサは、深呼吸をした。

 何とか自身を落ち着かせたラリサは――

「あ、でも、一つだけ……ワガママを言っても良いっすか?」

 と言うと、こう続けた。

「やっぱり、一人で死ぬのは、寂しいっす。だから、勇者さん……最後の瞬間まで、自分と一緒にいて貰えないっすか?」

「!」

 そう言って、やはり笑顔を見せるラリサに、勇者は――

「ああああああああああ! 気に入らねぇ!! 全くもって!! 気に入らねぇ!!!」

「!?」

 ――空間転移して来たモンスターを聖剣で一刀両断しつつ、感情を爆発させた。

 ジュディの店の中であるため、本来ならモンスターの血で店内が汚れないように炎魔法で燃やし尽くすべき所だが、激情に駆られた勇者は失念しており、ラリサに対して思いの丈をぶつけた。

「孤独だった自分が、不幸だった自分が、ちょっと優しくして貰ったから、それで満足!? それで幸せ!? だから、もう直ぐ死ぬけど、大丈夫!? 何だよそれ!? 何でヘラヘラ笑ってられるんだお前!? 死ぬんだろ! そんなの、怖いに決まってんだろ! 怖いって泣けよ! 喚けよ!! 平気な顔してんじゃねぇよ!!!」

 そして、

「それもこれも、お前が経験した〝楽しい〟とか〝幸せ〟ってのが、中途半端だからだ!」

 と言うと、ラリサを指差し、大声で叫んだ。

「これから数日間、俺がお前に、想像も出来ないくらい楽しいを思いをさせてやる! 信じられないくらい凄いデートをしてやる! それで、最後、お前が死ぬ時に、『こんなに楽しい事をもう経験出来ないなんて、辛い! 悲しい! 寂しい! 嫌だ! 死にたくない!』って、泣かせてやる! 泣き喚かせてやる! 号泣させてやる!」

 予想だにしなかった言葉に、目を見開いたラリサが、

「え!? それって……」

 と呟くと、勇者は、

「分かったか!? 覚悟しとけ!」

 と、吼えた。

 ラリサは、思わず目が潤んだ。

 だが、必死に堪えると、

「……わ、わぁ~い! やったぁ!」

 と、飛び上がって喜んだ。

 そして、後ろを向くと――

「……ありがとうっす……勇者さん……」

 と、声を震わせて――涙を零した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] どうもはじめまして。 作品拝見しました。 とても面白いです。 (*^▽^*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ