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勇者は、このキングヘイズ王国の王都から少し離れた村で生まれ育った。
そこは、代々、〝勇者が生まれて来る〟事で有名な村で、常に国から何人か護衛の兵士を送り、警護させるほど、重要視していた。
そんな勇者には、幼馴染がいた。
彼女の名は、アレイダ。
桃色の長い癖っ毛の美少女で、アレイダには僧侶の素質があり、幼い頃から勇者と共に修行に励んでいた。
そして、三年前。
勇者とアレイダは王都の冒険者ギルドにて――
「あたしは、ジュディ。戦士よ」
「ハッ! 俺様はマイルズ、魔法使いだ」
――ジュディとマイルズに出会い、パーティーを結成した。
その直後、王都の大通りを一緒に歩いていると、突如、真っ白なローブに身を包んだアレイダが転んだ。何もない所で、だ。
「大丈夫?」
と声を掛け、手を差し伸べるジュディに対して、
「ありがとう、ジュディちゃん。うん、大丈夫」
と答えた後、アレイダはこう続けた。
「私ね、自分の右足と左足が絡まって、上手く歩けない事があるの」
それを聞いた一同は、一瞬の間の後――
――笑い転げた。
「もう! 笑わないで! 私は、真剣に悩んでるんだから!」
と、頬を膨らませるアレイダだったが、暫く笑い声が止む事は無かった。
そんな、不器用を絵に描いたような少女だったが、アレイダは常にひた向きで、一生懸命だった。
自分の防御魔法が、自分の回復魔法が、仲間たちの命運を分ける。
いつもそう意識して、魔法の修練に励んだ。
勇者たちは、まずは実戦経験を積み、強くなろうと話し合って決めた。
どんなモンスターであろうとも楽に勝てる程にならなければ、魔王に戦いを挑んでも太刀打ち出来ないからだ。
そして、パーティーを組んで半年後。
最初に比べて、勇者たちはかなり強くなっていた。
低級モンスターは勿論、中級モンスターも、問題無く倒せるようになっていた。
この頃には、上級モンスターでさえも、相手が一匹であれば、四人で力を合わせる事で勝利する事が出来るほどになっていた。
そんなある日。
今まで挑戦したことのない攻略難易度のダンジョンに、挑戦することになった。
山脈の中に突如現れる洞穴に入って進んで行き、最下層を目指す、というものだ。
実際にダンジョンに入ってみると、確かに、モンスターの数もそこそこ多く、手強い相手もいた。
が、正直、四人が思ったほどではなかった。
だが、最下層に辿り着いた瞬間――
「「「「!」」」」
――四人は、今まで感じた事のない異様な雰囲気と圧迫感を感じて、最大限の警戒と共に、戦闘態勢に入った。
彼らの眼前には、開けた空間が広がっている。
そして、その奥に見えるのは、岩壁の中に嵌め込まれた、巨大な扉だった。
そこから、言葉では形容し辛い、異様な圧力を感じたのだ。
「……あ、あの扉……何か、嫌な感じがする……!」
と、アレイダが冷や汗を掻きながら、声を震わせる。
ジュディも、
「あたしも、アレはヤバいと思うわ……」
と、険しい表情を浮かべる。
一方、
「ハッ! てめぇら弱気過ぎんだろうがよ! 何が出てこようが、俺様がぶっ飛ばしてやるぜ!」
と、半裸の魔法使いは豪語した。
三人の言葉を聞いた勇者は、少し考えた後、
「……確かに、あそこには、何かあると思う……」
と俯きながら呟いた後、顔を上げて、こう続けた。
「だけど、俺は、挑戦したい! これを乗り越えたら、きっと俺たちは、更に強くなれる! 俺たちなら――この四人ならきっと、大丈夫だ!」
真剣な表情で三人の顔を見詰める勇者に、アレイダは、
「……うん、分かった! 私、頑張ってサポートするね!」
と、覚悟を決めて頷き、ジュディも、
「ったく。しょうがないわね。分かったわよ」
と、頭を掻きながら、言った。
マイルズは、
「よく言った! それでこそ男だ!」
と、魔法使いにしては強過ぎる膂力で、勇者の背中を叩いた。
それだけでよろけていた最初の頃と違い、鍛えられて体幹がしっかりした勇者は、全く動じず、
「ありがとう、みんな」
と、仲間たちに礼を言った。
そして、
「よし……行くぞ!」
と、声を上げ、鞘から聖剣を取り出し、構えた。
アレイダが、聖杖を翳して、
「『防御』! 『防御』! 『防御』! 『防御』!」
と、自身を含めた全員に防御魔法を掛けると、各々が淡く輝く透明な球体状の光に包まれた。
それを確認しつつ、勇者は、見上げる程の巨大な扉に近付いて行く。
今の所、周囲には、モンスターの気配はない。
唾を飲み込みながら、勇者が、慎重に扉に手を触れた。
――瞬間――
「「「「!」」」」
――扉から感じていた圧迫感が一気に膨れ上がって、勇者は思わず後ろに飛び退いた。
すると、扉の中央が隆起し始めた。
――否、それは扉ではなく、直ぐに、独立した意味ある形を成した。
それは――
「ガーゴイル!」
――二メートルほどの身長の、翼の生えた悪魔――としか形容出来ない、複数の牙と角を持つ漆黒のモンスター――城を守るモンスターとして有名なガーゴイルだ。
と同時に――
「新手よ!」
「「「!」」」
背後から、モンスターの大群が現れた。
挟撃された形だ。