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「ご馳走さま」
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
代金を支払った勇者に対して、ウェイトレスが御辞儀するが、その笑顔は引き攣っていた。
店を出た勇者は、
「はぁ」
と、溜息をつきながら、この国――キングヘイズ王国――の王都の大通りを力なく歩いて行く。
魔王に掛けられた呪いが発動した時――つまり、勇者が仲間たちと共にこの王都に戻って来て、人々から称賛された直後――に、勇者には、周りに迷惑が掛からないように、王都ではなく、人気のない森や山などで生活する、という選択肢もあった。
――が。
「命懸けで魔王を倒した俺が、何でそんなコソコソ隠れて暮らす、みたいな目に遭わなきゃいけないんだ! んなのやってられっか!」
と叫ぶと、国王に会いに行き、事情を説明して、王都で暮らす、と宣言した(その最中にもモンスターが現れたが、勇者は問題なく一瞬で殺した)。
魔王を倒して世界を救った勇者を無下にする訳にもいかず、国王は、勇者に対して王都で暮らす許可を与えた。
更に、もし勇者がレストランなどの店にいる際にモンスターが突如現れ、それを倒す過程で店内を血で汚したり、物を壊したりした場合は、国が弁償する、とした(モンスターの死体の処理は、近くにいる衛兵が駆け付けて、対処するようにした)。
だが、この時、国王は甘く見ていた。
これ程頻繁にモンスターが現れるとは思っておらず、また、世界中に残っているモンスターたちの数がこれ程多いとは思っていなかったのだ。
その結果。
一年が経ち、かなり国の財政負担が増えて来た。
が、魔王を倒した勇者に、金を出せとは言えない。
そもそも、勇者は、呪いを受けている立場であり、被害者なのだ。
尋常では無い強さのせいで忘れられがちだが、毎日、いつ襲って来るかも分からないモンスターたちのせいで、命懸けの戦いを強いられているのだ。
しかし、財政は何とかしなければいけなかった。
そこで、〝勇者税〟という税金を新たに創設しようとした。
だが、市民が反発した。
「勇者に恩はあるが、流石にそれは受け入れられない」
と言って。
すると、〝イケメンの勇者に好意は抱いているものの、モンスターが現れたりそれを目の前で殺されたり血を浴びたりするのは嫌なので、遠くから見守りたい〟という、〝勇者見守り隊〟と呼ばれる女性たちが、〝勇者基金〟なるものを立ち上げて、皆で寄付を集めて、それによって、国の財政を支える事になった。
それを聞いた勇者は、
「いや、ありがたいけど、遠くから見守るんじゃなくて、俺とデートしてくれよ!」
と、突っ込んだ。