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 次の瞬間。

 勇者とバージェン枢機卿は、王都――崩壊した大聖堂の瓦礫の中――に戻っていた。

「勇者さん! 無事だったんすね!」

 近くに空間転移したラリサが、明るい声を上げる。

「ああ」

 と、勇者はラリサを見て、頷いた。

 ――直後――

「動くな!」

「!」

 ――勇者たち三人は、大勢の衛兵たちに取り囲まれた。

 それを見たバージェン枢機卿は俯き、密かに口角を上げたかと思うと――

「ああ! 勇者さん! これ以上の罪を重ねるのは、どうか止めて下さい!」

 ――勢い良く顔を上げると、芝居掛かった口調で、眼前の勇者に対して――しかし周囲に聞こえるように大声で――語り掛け始めた。

「あの巨大なモンスターが出現して大聖堂を破壊してしまったのは、勇者さんが意図した事では無かったはずです! 確かに、他の建物ならいざ知らず、我が国の国教の象徴たるこの大聖堂を破壊したのは、流石に謝って済むような問題では無いかもしれません。ですが、勇者さんにそのような意図は決してなかったと、私も証言します! ですから、目撃者である私を脅すなどと、そんな愚かな事は、止めて欲しいのです! 仮にも貴方は、あの諸悪の根源である魔王を打ち滅ぼした、誇り高き勇者なのですから!」

 滔々と演説をするバージェン枢機卿を、勇者はただ黙って見ていた。

 どうやら、自分が禁忌(タブー)とされるモンスター招喚魔法を用いてバフォメットを招喚した罪と、国にとっても国民にとっても特別な存在である大聖堂を破壊した罪を、どちらも勇者に(なす)り付けたいらしい。

 奥の手であるバフォメットを使ったにも拘わらず勇者に敗れたバージェン枢機卿は、戦略を変え、まずは勇者を牢獄に入れた後、獄中の勇者を暗殺する事にしたのだった。

 バージェン枢機卿は、

 こういう搦め手には、弱いようですね。

 と、内心ほくそ笑む。

 バージェン枢機卿の言葉に、ラリサが、

「勇者さんは、誰かを脅したりとか、そんな事しないっす!」

 と、言った。

 そして、

「それに、巨大なモンスターが現れる時は、勇者さんは、直前に察知する事が出来るっす! むしろ、さっきのモンスターが出現したのは、勇者さんのせいじゃなくて――」

 と、続けようとしたが、勇者が、至近距離に空間転移して来たモンスターを一瞬で倒しながら、

「ラリサ」

「!」

 と声を掛けて、首を振って制止したため、口を噤んだ。 

 ラリサは、

 自分がモンスターだからっすか!? モンスターの証言は、信頼出来ないからっすか!?

 と、悲しく思った。

 だが、ラリサは直ぐに(かぶり)を振った。

 そして、

 ううん、そうじゃないっす! さっき勇者さんは、自分の事を、『〝モンスター〟じゃない。〝ラリサ〟だ』って言ってくれたっす! きっと勇者さんには、考えがあるんす!

 と、考え直すと、様子を見守る事にした。

 バージェン枢機卿は、それ以上ラリサが発言するなら、そちらへの対処も考えなければならないと思っていたが、勇者が止めたため、勇者への語り掛けを続ける事とした。

 バージェン枢機卿は、

「勇者さん、どうか、投降して下さい。私も、出来る限り弁護させて頂きますので!」

 と言うと、周囲の衛兵たちに対して、

「皆さん、過ちを犯したとはいえ、勇者さんは、英雄です。丁重にお連れするように!」

 と、言った。

 その声に呼応して、フルプレートアーマーで頭部から脚まで全身を覆った一人の衛兵が、近付いて来た。

 バージェン枢機卿が、

 これで、終わりです!

 と、思った直後――

「その〝大聖堂を破壊した巨大なモンスター〟が現れたのは、本当に、コイツのせいだったのかしら?」

「!?」

 ――兜を脱いだ衛兵は――

「あ、貴方は!」

 ――長いプラチナブロンドの美少女――ジュディだった。

 先程からずっと、バージェン枢機卿に対して勇者が一言も反論しなかったのは、ジュディがこの場にいる事に気付いていたからだ。

 衛兵たちに取り囲まれた際に、ジュディは、一瞬だけ闘気で全身を覆うと、直ぐに消した。

 それは、コンマ何秒という、ほんの僅かな時間であったため、同じく闘気を扱う勇者以外には、気付けないものだった。

 つまり、それは明らかに、〝自分はここにいる〟という、ジュディから勇者への合図だった。

 それに気付いたために、勇者は、何かジュディに考えがあるのだろうと思い、まずは出方を窺う事にしたのだ。

 ジュディは、勇者の隣に立ち、バージェン枢機卿と相対すると、

「バージェン枢機卿。ここ暫くの間、ずっとあんたの事を調べさせて貰っていたわ」

「!」

 と言った。

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