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 草原地帯に移動した勇者は、

「お前に空間転移魔法を使った覚えは無いんだがな……」

 と、モンスター――バフォメットと呼ばれる最上級モンスターだ――の横に佇むバージェン枢機卿に向かって呟いた。

 バージェン枢機卿は、

「ええ。勝手について来ました」

 と、涼しい顔で言った。

(コイツ……)

 と、勇者は、バージェン枢機卿を睨み付ける。

 本来、空間転移魔法は、魔法使いが扱う魔法だ。

 聖職者で使える者など、聞いた事が無い。

 更に、先程の巨大な魔法陣は、禁忌(タブー)とされる、モンスター招喚魔法だ。勇者が屠った十匹のモンスターたちを生贄として捧げる事で、バフォメットを招喚したのだろう。

 見ると、バージェン枢機卿の口元を血が伝っており、それに気付いた彼は、胸元からハンカチを取り出すと、サッと拭いた。

 どうやら、かなり無理をしているらしい。

(白髪の理由は、それか……)

 と、勇者は分析しつつ、空間転移して来た水晶蜥蜴(クリスタルリザード)――体長三メートルで、身体がクリスタルで出来ているモンスター――を瞬時に聖剣で倒した。

 バージェン枢機卿は、聖職者にも拘わらず、聖職者には扱えないとされる魔法や禁忌とされる魔法を習得するために、肉体に尋常では無い負荷を掛けて来たのだ。

 勇者が、

「何故俺を――」

 と、自分の命を狙う理由を聞こうとした直後――

「勇者さん! 何すか、あのモンスターは!? それに、あれは……この間の偉い人っすか!?」

 ――と、突如この場に空間転移されて、混乱しているラリサの声が、右斜め後ろから聞こえた。

 勇者は、振り向きながら、

「アイツに会いに行ったら、『殺す』って言われて、あのモンスターを招喚されたんだ」

 と、ラリサに手短に説明する。

「え!?」

 と驚くラリサ。

 勇者は、再度バージェン枢機卿の方を向くと、

「何故俺を殺そうとする?」

 と、訊ねた。

「何故、ですって?」

 バージェン枢機卿の眉毛が、片方、ピクッと反応して上がる。

 バージェン枢機卿は、

「分からないのですか? まさか、そこまでとは……」

 と言うと、説明を始めた。

「人間は、〝神が創りたもうた、最も神に近く神聖な存在〟です。そして、モンスターは、その対極の存在。そんなモンスターを、貴方は、毎日、我が国の王都に呼び寄せているのです。通常ならば、それだけも許されざる暴挙ですが、貴方には、魔王討伐という功績がある。ですから、大目に見てあげていたのです」

 そこで一旦言葉を切ると、バージェン枢機卿は、

「ですが、貴方は、人間として決してしてはいけない行為を――許されざる行いをしました」

 と言うと、ラリサを一瞥した。

 そして、

「勇者ともあろう者が、事もあろうに、モンスターと仲睦まじく交流するなど、言語道断! 人類全体に対する裏切り行為で、万死に値します! よって、私が処刑するのです!」

 と、叫んだ。

(ラリサの事、気付かれていたのか……!)

 バージェン枢機卿は、顔を歪めて、ラリサを睨み付けた。

「ああ、汚らわしい! 下劣で、卑しく、下等な存在。ただ存在するだけで、害をなすモンスター。そんな者と、共に飲食し、会話し、笑い合うなど、狂気の沙汰です」

 と、嫌悪感を露わにした。

 その言葉に、ラリサは、俯いて悲し気な表情を浮かべる。

 すると、勇者は、ラリサを守ろうとするかのように、彼女の前に立ち、

「コイツは、〝モンスター〟じゃない。〝ラリサ〟だ」

「!」

 と、言った。

 思わず、ラリサは、

「勇者さん……」

 と、顔を上げる。

 バージェン枢機卿は、

「詭弁ですね。モンスターはモンスター。何をどう言おうが、事実は変えられません」

 と、冷淡に言った。

 が、勇者は、

「詭弁? どの口が言うんだ? お前こそ、モンスターを忌み嫌っている癖に、モンスターの力を借りて俺を殺そうなんて、矛盾も良いところじゃないか」

 と、指摘する。

 バージェン枢機卿は、

「何とでも言いなさい。悪が――貴方が滅びれば、それで全て丸く収まるのです」

 と言うと、こう続けた。

「そっちのモンスターは、攻撃が無効化されるようですが、何もせずとも、その内勝手に野垂れ死ぬようですし、放っておきましょう」

「!」

(何でコイツがその事を知ってる!? どっから情報が漏れたんだ?)

 と思考する勇者の頭に、ふと、ジュディの顔が思い出される。

(いや、犯人探しは後だ。それよりも、今は――) 

 と、考えながら、勇者は、

「お前はさっき、俺に対して、『人類全体に対する裏切り行為だ』『よって、処刑する』と言ったな? じゃあ、俺は、お前の罪を裁いてやる。ラリサに対する侮辱罪でな!」

 と言った。

 バージェン枢機卿は、

「何を言い出すかと思えば……。もう、救いようがない程に腐ってしまっているのですね」

 と言った。

 勇者は、

「モンスターに頼らなきゃ、人間一人殺せない腰抜け聖職者! 本当は俺が怖いんだろ? 今の内に逃げ帰っても良いぞ」

 と言いながら、飛行魔法で、一気に斜めに舞い上がって行った。

 バージェン枢機卿は、

「安い挑発ですね。ですが、良いでしょう。乗ってあげますよ」

 と言って、飛行魔法で舞い上がり、バフォメットも黒翼を羽搏かせて急上昇して行った。

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