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 一旦森の中に空間転移した直後、マイルズ擬きは立て続けに空間転移魔法を発動して、砂漠へと移動し、更に草原へと空間転移した。

 それは、勇者に後を追わせないための策だった。

 草原の中に佇むマイルズ擬きは、

「くそっ! どうなってやがるんだ!? この男は、勇者より強いんじゃなかったのかよ!」

 と、叫んだ。

 そして、こう続けた。

「まぁ、良い。あれだけ空間転移を繰り返せば、追っては来れねぇだろう。一旦態勢を整え――」

 ――だが。

「がぁっ!?」

 ――その台詞の途中で、頭部から上半身、そして下半身まで、左右に一刀両断された。

 手に持っていた魔法の杖が、地面に落ちる。

「『そんな魔法で俺様を倒せる訳ねぇだろうが!』だったか? じゃあ、『風刃(ウィンドブレイド)』だけで殺してやる」

「!」

 背後に現れた勇者に、マイルズ擬きは――

「『空間転(ワー)――』」

 ――と、慌てて空間転移魔法で逃げようとするが――

「『風刃(ウィンドブレイド)』」

「ぐぁっ!」

 ――一瞬早く、勇者が翳した手から出現した無数の風の刃によって、頭部から足の先まで、身体中を細切れにされた。

 勇者は、

「マイルズは、スキャンしようと機会を窺っていたお前――いや、お前らに勘付いていたんだ。そして、気付かない振りをして、〝改竄した記憶〟を、お前らにスキャンさせた。自分に擬態した後、俺を――勇者を襲いに行くんだろうって、分かってて、わざとそうしたんだ、あの野郎は。きっと、〝面白そうだから〟とか、そんな理由でな。〝改竄した記憶〟のせいで、お前らは、マイルズの方が俺よりも強いと錯覚させられたんだ」

 と言った。

 そして、

「あ、そうそう。癪だが、アイツはお前らみたいに弱くない。魔法に於いては、世界で俺の次に強い奴だからな。恐らく、アイツなりに気を使ったんだろうな。俺を襲う事になるであろうお前らに、自分の本当の強さを隠した状態でスキャンさせたんだ。だから、俺に負けたのは必然だったんだ。ま、本気のアイツの強さをスキャンしていたとしても、俺が勝っていたけどな」

 と、肉片と化したマイルズ擬きに向かって呟きつつ、至近距離に空間転移して来たゴーレム――全身が土で出来た巨大なモンスター――を、聖剣を一閃して殺した。

 勇者が空間転移して来た事で、近くに空間転移されて来たラリサが、

「勇者さんの仲間じゃなくて……モンスターだったんすね……」

 と、言った。

 勇者は、

「そうだ。他の最上級モンスターに擬態する最上級モンスターだ。傍目には人間にしか見えないから、恐らく、堂々と城門を通って、王都内に侵入したんだろう」

 と、ラリサの方を向き、頷いた。

 すると、ラリサは唐突に――

「ごめんなさいっす!」

 ――と叫び、勇者に向かって頭を下げた。

「何の話だ?」

 と、困惑する勇者に、ラリサは一旦顔を上げると、

「ジュディさんの事で、勇者さんに散々浮気だなんだと言ってのに、自分、他の相手と、二人っきりでお茶してしまったっす……。だから、ごめんなさいっす!」

 と言って、再び頭を下げた。

 勇者は、

「そんな事か。別に良い。気にするな」

 と言うと、

「それよりも、お前、大丈夫だったか?」

 と、聞いた。

 ラリサは、キョトンとしながら、

「自分は、呪いがあるから、どんな攻撃されても、効かないっすよ?」

 と、小首を傾げた。

 勇者は、

「……そうだったな」

 と言うと、ポリポリと頭を掻いた。

 何故、気遣ったのか。何に対して、気遣ったのか。

 そんな疑問が、勇者の頭に浮かんだが、答えは分からなかった。

 ラリサは、

「でも、心配してくれて嬉しいっす!」

「!」

 と、明るい声を上げた。

 その笑顔が眩し過ぎて、勇者は直視出来ず、

「じゃあ、戻るぞ」

 と言って、目を逸らした。

 ラリサは、

「はいっす!」

 と、元気良く言った。

 そして、勇者は空間転移魔法を発動し、二人は王都へと戻った。

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