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 見ると、マイルズ擬きの首の断面と、身体の方の断面から、先程見た触手が多数蠢いている。

 マイルズ擬きは、分離した首と身体を結合して元に戻しながら、

「てめぇ、さっき、俺様がこの男の強さを二匹で再現しているって言ったな? (ちげ)ぇよ、三匹(・・)だ」

 と言うと、

「これだけ苦労して手に入れた能力だ! 確実にぶっ殺してやる! 勇者だとか言われてるが、てめぇは、俺様よりも弱いからな!」

 と続けて、魔法の杖を翳した。

 すると、マイルズ擬きの頭上に、幾多の魔法陣が現れ、それぞれから炎槍・雷槍・風槍・水槍・氷槍という、五種類の最上級魔法が、勇者に向けて一斉に放たれた。

「くっ!」

 魔法陣から次々と飛ばされて来る五種類の魔法の槍を、勇者は飛行魔法によって右に左にと高速で移動して、ギリギリで躱して行く。

 しかし、攻撃は全て自動的に勇者を追尾して来て、どれだけ回避してもキリが無く、むしろその数は増えて行く。

「ハッ! いつまで持つか見物だな!」

 と、下卑た笑みを浮かべるマイルズ擬きを一瞥すると、勇者は、急上昇した。

「逃がすかよっ!」

 と、マイルズ擬きが魔法の杖を翳すと、今や夥しい数に膨れ上がった魔法の槍群が、勇者を追い掛けて急上昇して行く。

 勇者は、途中で上昇を止めて、横に逃げると、今度は急降下した。

 そして、魔法の槍群を引き連れたまま、マイルズ擬きの後ろに辿り着くと、マイルズ擬きにぶつかる寸前まで接近した後、ギリギリで素早く右へ方向転換した。

(よしっ!)

 魔法の槍群が、マイルズ擬き本人に襲い掛かる。

 ――が。

「姑息な手を使いやがって。こんなんで俺様を倒せると思ってんのか? あ?」

「!」

 ――振り向いたマイルズ擬きが魔法の杖を翳すと、マイルズ擬きに接触しそうになっていた幾つかの魔法の槍が消滅し、残りは強引に方向転換して勇者を追って来る。

 それを見た勇者は、また回避するために斜め右上へと飛んで行くが――

「!」

 ――進行方向から、別の魔法槍群が向かって来ていた。挟撃された形だ。

 更に、左からも、右からも、前後からも、別の魔法槍群が、迫って来る。

 思わず、勇者が空中に静止すると、大量の魔法槍群が勇者の全方位を取り囲み、動きを止めた。

 マイルズ擬きは、

「てめぇの動きを先読みしてたんだぜ! こういうのがちゃんとした戦略って奴だ!」

 と言うと、

「終わりだ。死にやがれ!」

 と、魔法の杖を翳した。

 と同時に、無数の炎槍・雷槍・風槍・水槍・氷槍が、勇者に襲い掛かる。

 次から次へと間髪を容れずに勇者にぶつかって行く魔法槍群を見ながら、マイルズ擬きは、

「空間転移魔法を使って逃げたきゃ、逃げても良いぞ! すぐに追い掛けてやるけどな!」

 と、叫んだ。

 ――だが。

 使う様子はねぇな……。いや、使う余裕が無かったのか……。

 と思いつつ、冷静にマイルズ擬きが観察する中、最後の魔法槍が勇者にぶつかった。

 炎・雷・風・水・氷と、様々な物が入り混じった煙が勇者の周囲を包んでいる。

「ハッ! 案外呆気無かったな」 

 と、マイルズ擬きが言った後、煙が晴れた。

 すると――

「なっ!?」

 ――中から、無傷の勇者が現れた。

「てめぇ!? 一体どうやって!? 多重防御魔法か!?」

 と、マイルズ擬きが聞くと、勇者は、

「いや、ただの防御魔法だ」

 と言った。

 見ると、確かに勇者の全身は、淡く輝く透明な球体――防御魔法――によって包まれている。

 が、一重であり、多重防御魔法を展開している様子は無い。

「ふざけんなよてめぇ! ただの防御魔法で、俺様の最強魔法を防げる訳ねぇだろうが!」

 と、マイルズ擬きは、声を荒げると、

「今度こそ、死ね!」

 と、再び、頭上の魔法陣群から、数多の魔法槍群を出現させ、勇者に飛ばした。

 猛スピードで襲い掛かって来る魔法槍群が勇者を直撃する。

 ――しかし。

「くそっ! 何でだ!?」

 ――それでも、勇者に傷一つ付ける事が出来ない。

 勇者は、

「俺の防御魔法は特別製でな」

 と言うと、

「さっきお前は、俺がお前――マイルズ――よりも弱いとか言ってたな。一体、いつの話をしてるんだ?」

 と、訊ねた。

 マイルズ擬きは、

「は? そんなの、今に決まってんだろうが!」

 と、苛立った声を上げる。

 その間にも、魔法槍群は勇者を襲い続けるが、勇者は意にも介さない。

 勇者は、

「確かに、最初は、マイルズの方が強かった」

 と言いながら、マイルズ擬きに対して、両手を翳した。

 そして、

「だがそれは、三年前の話だ。今では、明らかに俺の方が強いんだよ」

 と続けると、翳した両手が光り輝き――

「なっ!?」

 ――魔法陣が、空を埋め尽くした。

 文字通り、目で見える範囲全ての空が、魔法陣によって埋め尽くされたのだ。

 現実離れした光景に目を剥くマイルズ擬きを見た勇者は、

「お前は真似するのが得意だったな。じゃあ、俺も、お前と同じ技を使うとしよう」

 と言うと、星の数程の魔法陣から、炎槍・雷槍・風槍・水槍・氷槍を出現させて、マイルズ擬きに向かって飛ばした。

「チッ! 化け物が!」

 マイルズ擬きは、自分を守るために、勇者を攻撃するのに使っていた魔法槍群を全て迎撃に向かわせた。

 だが、圧倒的に数が足りず、自分が出現させた魔法陣から必死に新たな魔法槍群を生み出すも、それでも全く足りず――

「『防御(プロテクト)』! 『防御(プロテクト)』! 『防御(プロテクト)』! 『防御(プロテクト)』! 『防御(プロテクト)』!」

 ――自分自身に多重防御魔法を掛ける。身体が淡く輝く透明な球体状の光に包まれ、その外側に更に大きな球体状の光が現れ、五重に重なって行く。

 ――が。

「くそがっ!」

 一つ一つが相手を死に至らしめる破壊力を持った魔法槍の雨によって、多重防御魔法が一つまた一つと破壊されて行く。

 その様子を見ながら、勇者は、

「そろそろ空間転移魔法で逃げないと、ヤバいんじゃないか?」

 と、声を掛ける。

「うるせぇ! クソ野郎が!」

 と叫び、必死に魔法槍群で迎撃し、多重防御魔法を掛け直して自衛するマイルズ擬きだったが――

 この身体の持ち主――あの男の性格のせいで、すぐ挑発に乗っちまいそうになる。

 だけど、そんな事言ってる場合じゃねぇ! このままじゃ、マジで死ぬ!

 と思った直後――

「『空間転移(ワープ)』!」

 ――と、マイルズ擬きは空間転移魔法を用いて、空間転移した。

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