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――しかし。
その一年後には、勇者は、〝血塗れ勇者〟という、不名誉な呼ばれ方をされており、最早誰も〝英雄〟とは呼んでいなかった。
それは何故かと言うと――
「ガアアアア――グハッ!?」
「デートの度にこれだもんなぁ」
至近距離――右斜め後ろ――に突如出現したオーク――豚の半獣人のモンスター――を、斜めに背負った聖剣を一瞬で引き抜き一刀両断してまた鞘に戻す勇者。レストラン内に鮮血が飛び散り、オークの死体が地面に崩れ落ちる。
――それは、魔王が死ぬ寸前に勇者に掛けた〝呪術魔法〟のせいだった。
その呪術魔法は、二十四時間三百六十五日、常に〝モンスターが至近距離に空間転移されて襲い掛かって来る〟というものだった。
オークの返り血を浴びて真っ赤になった勇者の姿。
これこそが、〝血塗れ勇者〟という二つ名の由来だった。
ちなみに、先程巨乳美少女が逃げるきっかけとなったゴブリン――緑色の肌を持ち醜悪な顔をした小柄なモンスター――の死体も、店内――勇者と少女が座っていたテーブルの直ぐ近く――に、転がっている。
突然至近距離にモンスターが出現するだけでも怖いのに、勇者はいつもその返り血を浴びて血だらけになるのだ。
魔王を討伐してから一年間。
何人もの巨乳美少女たちとデートして来た勇者だったが、皆、血塗れの勇者を見た瞬間に、逃げて行った。
(おかしい……こんなはずじゃ……!)
と、勇者は心の中で思いながら、歯噛みする。
代々勇者が生まれる特別な村で生まれ、育てられた勇者は、幼少時代から魔王討伐のために、訓練を受けて来た。
勇者パーティーを組んで、魔王城を攻め落とす事を目指し、二年間、来る日も来る日も戦い続けた。
中肉中背で、背は平均程度だが、サラサラの金髪碧眼でイケメンである勇者は、本来、モテるのだ。王都で数多くの美少女たちとデート出来た事からも、それは理解に難くないだろう。
だが、〝魔王を倒すまでは〟と思い、それまでは女の子に手を出す事は決してなかった(それどころではなかった、という理由もあるが)。
そして、一年前。
遂に、魔王討伐という悲願を果たしたのだ。
王都に戻って来た勇者が、女の子たちとデートしようとした矢先。
魔王に掛けられた呪いが発動した。
そして、今日に至る。