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空間転移した先は、だだっ広い荒野だった。
上半身と下半身に分離していたマイルズの身体は、元に戻っている。
「ここ、どこっすか!? 何で、勇者さんの仲間が!?」
と、近くで混乱しているラリサを見て、
(やっぱ、自動的に付いて来ちゃうわな)
と思いつつ、勇者は、
「おい、三流モンスター! どうせお前みたいな雑魚モンスターじゃ、飛行魔法すら使えないんだろ! ショボいモンスターは辛ぇな!」
と、マイルズを挑発すると、飛行魔法で猛スピードで斜めに上昇し、高空へと舞い上がった。
マイルズは、
「ハッ! 俺様を煽るとは、上等だ!」
と言いながら、高速で追い掛けて行く。
勇者は、
(これくらいで良いか)
と、かなりの高度まで辿り着いた後、空中に静止した。
(取り敢えずこれで、ラリサからは離れたし、他のモンスターが空間転移して来ても対処しやすい)
と勇者は思考した。
空を飛べるモンスターは少ないため、マイルズとの戦闘中に至近距離に空間転移して来ても、勝手に落下して、地面に激突して死んでくれるはずだ。
と思った直後、モンスターが空間転移して来たが、案の定、飛べないモンスターであったため、為す術もなく落下していった。
(それにしても、さっき俺の剣を回避した時、超スピードというよりかはむしろ、〝俺の動きを予測した〟ような動きだった。って事は、やっぱり――)
と、勇者が考えていると――
「鬼ごっこは終わりか? あ?」
――マイルズが追い付いた。
そして、
「それにしても、何で俺様がモンスターだって分かったんだ、てめぇ?」
と、聞いた。
勇者は、
「確かにお前の擬態は、見た目は完璧だった。それに、どういうカラクリかは知らないが、普通は真似しようと思っても出来ない〝魔力〟さえも、完全にコピーしていた。お前から感知したのは、モンスターの魔力じゃなくて、マイルズの魔力だった」
と言った後、こう言った。
「でも、詰めが甘かったな。確かにマイルズは、貧乳が好きだ。だが、その本質は、〝ロリコン〟なんだよ! 『五年間掛けて、世界中の幼女たちを愛でる旅に出る』と言ったアイツが、たった一年で満足して戻って来る訳が無いし、近くを通り掛かった美幼女二人を無視するなんて事は、ロリコンのマイルズには、天地が引っ繰り返ったって、有り得ない!」
勇者の指摘に、一瞬唖然としたマイルズ擬きは、
「がははははは! そんな事でか!」
と、笑い転げた。
そして、
「それにしても、妙だな。俺様の『読み取り』は完璧だったはず。あの男の全てを『複写』したはずだがな」
と、怪訝な表情を浮かべたが、
「まぁ良い。てめぇをぶっ殺すって事には、変わりねぇからよ!」
と、殺意を込めた視線をぶつけて来る。
勇者は、
「さっきお前が撃とうとした最上級氷魔法だが、あの練られた魔力の量、そしてあの感じからすると、お前は、マイルズの強さを完全にコピーして、アイツの魔法を全て使えるって事か?」
と、質問した。
マイルズ擬きは、
「その通りだ! だが、安心しな。コピーはしたが、あの男は殺してねぇからよ。俺様のターゲットはてめぇだけだからな! それに、あの男は街道を一人でボーッと歩いてやがってな、どちらにしろアレじゃ、殺す気が失せるってもんだぜ」
と言うと、聖剣で斬られて上半分のみとなった魔法の杖を構えた。
勇者は、
「他の最上級モンスターに擬態する最上級モンスターとは、以前も戦った事があるが、まさか、マイルズに擬態するとはな。しかも、アイツの強さを再現するのに、一匹じゃ不十分で、二匹で力を合わせてやっととはな。涙ぐましい努力だな」
と、先程マイルズ擬きの上半身と下半身が分離した際に、それぞれから違う魔力を感じた事を思い出しながら言うと、
「その努力に敬意を表して、俺も魔法だけで戦ってやるよ。『風刃』」
と、手を翳した。
すると、円形の風の刃が出現し、マイルズ擬きへと勢い良く飛んで行く。
マイルズ擬きが、
「そんな魔法で俺様を倒せる訳ねぇだろうが! 舐めてんのか? あ? 『防御』」
と言うと、魔法の杖の先端から魔法陣が出現して、向かって来た風の刃を相殺した。
――が、それを見た勇者は口角を上げた。
分かりやすく正面から飛ばした攻撃は囮で、本命は、二人の更に上空に出現させて、密かにマイルズ擬きの背後へと飛ばした、もう一つの風の刃だ。
死角から猛スピードで襲い掛かって来た風刃により――
「ぐはっ!?」
――マイルズ擬きは呆気無く斬首された。
――だが――
「がははははは!」
「!?」
――再びマイルズ擬きは、笑い声を上げた。