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強引に連れ去られたラリサは、大通りに面したレストランのテラス席に座らされて、勝手にジュースを注文されて、自分を連れ去った張本人と向かい合っていた。
尚、バージェン枢機卿を見に行っている市民が多いためか、客は少ない。
ラリサは、
勇者さんに『浮気だ』と言っておいて、自分は他の男の人とお茶してるだなんて、こんなの、ダメっす! 許されないっす!
と、思った。
が、目の前の相手を冷たくあしらう事は出来ず、どう断ったものかと、思案していた。
何故なら、外見の特徴からして、まず間違いなく、この男は――
「もしかして、勇者さんの仲間の人っすか?」
一杯目の酒を一気に飲み干し、店員に二杯目の酒を注文していた半裸イケメンは、ラリサの質問に対して、
「お? 俺様の事を知ってるのか? 嬉しいねぇ。俺様はマイルズ。アイツとパーティーを組んでいた魔法使いだ」
と、相変わらず大きな声で答えた。
恐らく酒豪なのだろう、酒を一気飲みしても全く顔が赤くならないマイルズは、逆に、
「嬢ちゃんの名前を聞いても良いか?」
と言った。
ラリサは、
「自分は、ラリサっす」
と、名乗った後、
「何で、自分をここに連れて来たっすか?」
と、聞いた。
すると、マイルズは、ラリサを真っ直ぐに見詰めて、言った。
「嬢ちゃんが――いや、あんたみたいな可愛い女が好きだからだ、ラリサ!」
「!」
生まれて初めて真っ直ぐな好意を向けられて、ラリサは戸惑う。
そして、勇者の反応と比較してしまった。
巨乳好きで、ラリサはタイプではない、と言う勇者と、自分の事を〝可愛い〟と褒めてくれて、〝好きだ〟と告白してくれるマイルズ。
ラリサは、
だけど、きっとこの人は、自分の事を、人間の女の子だと思ってるっす。だから、こんな風に言ってくれるんす。
と思った。
本当は、言うべきじゃないとは思うっす。でも……勇者さんの仲間なら、言っても良いっすよね……?
と、少し躊躇った後に、ラリサは、
「実は……自分、モンスターっす。人間じゃないっす」
と、告げた。
これで、マイルズさんは、自分への興味を失うはずっす。
そう思っていたラリサだったが――
「モンスターだろうが、人間だろうが、あんたは可愛いし、魅力的だ!」
「!」
――マイルズの態度は、変わらなかった。
近くを、美幼女二人が、「はやく~!」「まって~!」と言いながら走って行くが、ラリサを見詰めるマイルズの耳には、周囲の雑音など入らない。
マイルズは、
「好きなんだ。俺様と付き合ってくれ、ラリサ!」
と、大声で愛情を伝えた。
ラリサは、愛を告白されて、正直、嬉しく感じていた。
〝忌み子〟として生まれ、扱われて来た自分に対して、異性が告白してくれたのだ。
生まれて初めての経験に、心が動いた。
しかも、勇者と違って、胸が大きくないラリサの事を可愛いと褒めてくれる。
モンスターである自分の事も受け入れてくれる。
先程手を引っ張った際に、呪いのせいで肌に触れる事が出来ず、身体を薄く覆う得体の知れない何かの感触がしたであろうに、その事も全く気にしない。
更に言えば、先程、馬車から守ってくれた恩人でもある。
無論、マイルズが助けずとも、魔王の呪いが発動して、ラリサを蹴り上げようとする馬を弾いて、ラリサには傷一つ付かなかっただろう。
だが、それを見られてしまえば、自分に特殊な能力がある事が知られてしまい、更に、そこから自分がモンスターである事もバレてしまう可能性があった。それを救ってくれたのだ。
そんなマイルズの告白に対して、ラリサは、
「ありがとうっす。正直、すごく嬉しいっす。可愛いって褒められたのも、告白して貰ったのも、生まれて初めてだったっす。マイルズさんは、自分がモンスターだって言っても、受け入れてくれたっす。すごく良い人っす」
と言った後、こう続けた。
「でも……ごめんなさ――」
――が、その言葉は――
「マイルズ! 何してんだ!」
「!」
――突如現れた勇者の声で遮られた。