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それから数日間。
勇者は、ラリサとランチデートをしたり、お茶をしたりと、変わらぬ日々を過ごした。
新しい服でも買ってやろうかと勇者は言ったのだが、ラリサは、
「大丈夫っす! もう、これを買って貰ってるっすから! えへへ」
と、勇者から貰った帽子を大切そうに触った。
ドレスに関しては、母親から貰った物で、思い入れがあるらしい(母親の死から数年が経っているが、胸が殆ど成長しなかった事が幸いしているのか、今でも問題なく着る事が出来ているようだ)。
そんなある日。
勇者は、ジュディに週一回の〝生存報告〟をしに行く事にした。
前回の反省を活かして、今回は、きちんと一週間経つ前に、余裕を持って行う事とした。
一人で行こうと思ったのだが、ラリサが、
「自分も行くっす!」
と言って聞かなかったため、仕方なく二人で一緒に向かった。
「俺の事を信じてくれるんじゃなかったのか?」
と、大通りで空間転移して来たモンスターを瞬時に聖剣で屠りつつ、勇者が聞くと、
「勿論、信じてるっす! でも、それとこれは話が別っす!」
と、隣を歩くラリサが答えた。
(いや、それは、〝本当は俺の事を信じてない〟って事になるんじゃないのか?)
と思いながら、勇者は溜息をついた。
ジュディの武器屋に到着して、店の中に入る。
店内には、客が数名おり、それぞれ商品を吟味している。
カウンターには、ジュディの姿は無く――
「あ! 勇者さん、いらっしゃいませなの!」
――と、青髪ショートヘアの巨乳美少女が、勇者に向けて笑顔を向けた。
武器屋にも拘わらず、美少女は何故か、白と黒を基調としたメイドの格好――エプロンドレス――を身に着けている。
勇者が美少女に声を掛けようとするが――
「この国の武器屋の店員は、全員巨乳じゃなきゃいけない法律でもあるんすか!?」
――と、一瞬早く、カウンター越しに美少女の豊満な胸を凝視しながら、ラリサが声を上げた。
美少女は、
「えっと……あの……勇者さん、この方はどちら様なの?」
と、明らかに困惑しながら呟く。
勇者は、
「何かうちの連れがごめん、クリス。コイツの事は気にしないで良いから」
と言うと、「自分は、ラリサっす! 気にして欲しいっす!」と噛み付くラリサを無視して、
「ジュディはいないみたいだね」
と言った。
クリスは、
「ごめんなさいなの。仰る通りなの。店長は、仕事で出掛けているの」
と、申し訳なさそうに、頭を下げた。
勇者が、
「いや、良いんだ。いつも通り、大した用事じゃないし。待たせて貰うよ」
と言うと、クリスは、
「はい、ごゆっくりどうぞなの」
と、微笑んだ。
他の客がいるため、勇者はラリサと共に、一旦店外に出た。
流石にジュディの店の前にモンスターの死体を散乱させておく訳にはいかないので、空間転移して来るモンスターは炎魔法で一瞬で灰にして行く。
そうして、暫く待っていると――
「あら、いらっしゃい、ラリサ」
「ジュディさん、こんにちはっす!」
――ジュディが戻って来た。
「俺の生存報告なのに、俺より先にラリサに挨拶するって、どうなんだ?」
と、勇者が不満を訴えると、ジュディは、
「うるさいわね。男が細かい事を気にするんじゃないわよ。だからあんたはモテないのよ」
と、冷たくあしらった。
勇者は、
「いや、お前が週に一度は来いって言ったから来ているんだが、それで貶されちゃ、堪ったもんじゃないぞ……」
と言うが、ジュディは完全に無視して、
「お菓子あるわよ、食べる?」
「わぁ~い! 食べるっす!」
と、ラリサと一緒に店内へと入って行った。
それを見ながら、勇者は、深々と溜息をついたが、
(まぁ、今回は殺されそうになる事も無かったしな)
と、前回と違って斬り掛かられる事も無く、無事に生存報告を済ます事が出来たという事で、良しとする事にした。