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全て話し終わった後。
ラリサは、至近距離に空間転移して来るモンスターたちを倒しつつ黙って聞いていた勇者に対して、
「ずっと黙ってるつもりだったっすけど……バレちゃったっすね……」
と、ぽつりと呟いた。
そして、
「これで……もう……勇者さんの近くにはいられないっすよね……」
と、悲しそうに言うと、
「……今まで、ありがとうっす。後は……死ぬまで、どこかでひっそりと、一人で暮らすっす……」
と、別れを告げて、立ち上がった。
すると、勇者は――
「恋人ごっこは終わりか?」
と、聞いた。
ラリサは、予想外の言葉に戸惑う。
「え? でも、聞いてたっすか? 自分は、魔王の子どもっすよ? モンスターたちの親玉の、娘っすよ?」
そんなラリサに、勇者は、
「だからどうした?」
「!」
と言うと、更に続けた。
「俺にとっては、魔王の子どもだろうが、そうじゃなかろうが、大した違いは無い。それに、約束したからな。お前と恋人ごっこをするって」
ラリサは、尚も、
「で、でも……」
と、躊躇していたが、勇者が、
「だから、最後まで付き合ってやるよ。お前が嫌じゃなけりゃな」
と、微笑むと、ラリサは――
「い、嫌な訳ないっす! ずっと会いたかった勇者さんに会えて、更に好きになったっす! ずっと一緒にいたいに決まってるっす!」
――そう声を上げて――
「勇者さん……ありがとうっす……」
と、目に涙を浮かべた。
それを見た勇者は――
「それにしても、お前、さっき砂漠でクラーケンから逃げる時、転けて何て言った? 『きゃっ!』て何だよ? か弱くて幼気な女の子アピールか? 戦闘中だってのに、お前のせいで笑いを堪えるのに必死だったぜ。ププッ」
と、ラリサを揶揄した。
ラリサは、
「な、何言ってんすか!? 勇者さんが『出来るだけ離れてろ!』って言うから、自分は必死に走って距離を取ろうとしたのに! それを馬鹿にするなんて、酷いっす!」
と、頬を膨らませた。
いつの間にか、ラリサの涙は引っ込んでいた。
それを確認した勇者は、安堵した。
先程の涙は、嬉し涙だ。それは勇者も分かっている。
しかし、嬉し涙であろうが何であろうが、ラリサの涙は見たくない、と思ってしまったのだ。
何故自分がそのように感じるのか、勇者はまだ分かっていなかった。
そして、プリプリと怒るラリサを見ながら、勇者は微笑み、空間転移して来たキマイラ――ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つモンスター――を一瞬で斬り伏せた。