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勇者に対して抱く気持ちが、恋慕の情へと完全に変わったのは、魔王が殺されてから七ヶ月後の事だった。
「!?」
一瞬立ち眩みがしたラリサは、危うく倒れる所だった。
そして、次の瞬間――
「……自分……半年後に、死ぬっす……」
――自分の〝死期〟が分かった。
恐らくは、魔王に掛けられた最初の呪いのせいだろう。
攻撃は出来ないものの、どんな物理攻撃・魔法攻撃も無効化出来るなどという圧倒的な能力を得ているのだ。その副作用として、死期が早まるのも、頷ける。
自分は、もう直、死ぬ。
そう悟ったラリサは――
勇者さん……! 勇者さん……!! 会いたいっす!!!
――無性に勇者に会いたくなった。
そして、出来る事ならば、勇者との間に、子どもを作りたい。
そう思った。
が、それは決して叶わぬ願いだ。
何故なら、ラリサは、誰にも触れる事が出来ず、触れられる事も出来ないのだから。
しかし、それでも、会いたかった。
会って、女としての幸せを、少しでも感じたかった。
母親は、最期に、『……どうか……幸せ……に………………』と言った。
幸せには、きっと、色んな形があるのだろう。
ラリサにとってそれは、〝愛する人と一緒にいる事〟だった。
愛する人。
母親が死ぬまでは、母親がそうだった。
残念ながら、その母親はもういない。
だが、新たに、もう一人、愛する人が出来た。
それが、勇者だった。
相変わらず地下牢内に閉じ込められたまま、牢屋の鍵も持たず、牢屋を破壊する力も持たないラリサには、勇者に会いに行く術など無い。
が、幸いな事に、魔王によって掛けられた、二つ目の呪いがあった。
問題は、その呪いがいつ発動するか、だ。
あと、半年しか時間が無い。
それまでに発動してくれなければ、手遅れになる。
「ああ! どうすれば良いんすか!?」
と、髪を掻き毟るラリサ。
しかし、暫くすると、冷静になった。
「いつ発動しても良いように、準備しておくっす!」
そして、毎日身嗜みを整えて、今日は発動するだろうか? もうそろそろ発動するだろうか? と思いながら、日々を過ごして行った。
その後、更に五ヶ月が経った。
あと一ヶ月しかない。
そう思い、焦るラリサだったが――
「!」
――呪いが発動し――
――ラリサは、空間転移され、勇者に会う事が出来た。