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19

 魔王は、何人も妾を囲っていた。

 ただ、別にそれは王としては珍しい事ではない。

 問題は、魔王が新たな魔法の研究のために、様々な呪術魔法を数種類混ぜて、自分の子どもに掛けていた、という事だった。

 呪術魔法を複数混ぜて掛けられた子どもたちのほぼ全員が、生きながら周囲を害する存在となった後、その負荷に耐え切れず、死んだ。

 ある者は、周囲に猛毒を撒き散らして大勢のモンスターを殺した後に、自身も毒に冒されて死んだ。

 また、ある者は、目・鼻・口・耳・そして全身から巨大な炎を噴き出し、周囲のモンスターを焼き殺した後、自身も焼き尽くされて、灰となった。

 いつしか、彼ら彼女らは、魔王の〝忌み子〟と呼ばれるようになっていた。

 無論、魔王本人の目の前で言えば処罰されるであろう事から、モンスター同士が密かに話す際に用いていた呼称だったが。


 その後。

 魔王の魔法研究への情熱は留まるところを知らず、その内に自分の子どもがある程度大きくなるのを待てなくなり、幼少期の子どもにも混合呪術魔法を試すようになり、更には、生まれたばかりの赤ん坊にも掛けるようになった。

 そして、遂には、まだ母親の母胎の中にいる胎児に対しても、混合呪術魔法を試すようになった。

 そのようにして、母胎の中にいる間に混合呪術魔法を掛けられた一人が、ラリサだった。

 どういう訳か、ラリサは、他の〝忌み子〟たちと違って、周囲を傷付けるようなものは何も発しなかった。

 代わりに、物理攻撃・魔法攻撃のどちらも無効化するという、稀有な能力が具わっていた。

 これは、上手く応用すれば、最強の能力を開発出来るかもしれない。

 魔王はそう思ったが、数年経って、ラリサは、攻撃無効化の代償として、「相手に攻撃する事が出来ない」、という事が分かってからは、「使えない」と判断し、ラリサから興味を失っていった。

 ラリサは、時々自分に会いに来ていた魔王が自分の父親である事を、知らなかった。

 ラリサの母親が、〝モンスター同士では子どもを作れない事〟を隠し、「父親であるモンスターはラリサが生まれる前にどこかに行ってしまったため、いない」、と伝えていたからだ。

 父親はおらず、〝忌み子〟であるために母親と共に魔王城の地下牢に監禁されており、友達もいない。

 そんな環境だったが、ラリサは、寂しくは無かった。

 ラリサの母親が、とても優しかったからだ。

 ラリサは、母親に抱き着くのが大好きだった。

 無論、呪いのせいで母親に触れる事も触れられる事も出来ない。

 それでも、ラリサは、出来るだけ母親に近付きたいと思い、抱擁を求めた。

 母親は、ラリサに触れようとする度に、透明で冷たい無機質な金属のような感触に遮られ、一瞬だけ切なそうな表情を浮かべるものの、直ぐに笑みを浮かべた。

「もう、ラリサったら、甘えん坊さん」

「お母さん、大好きっす!」

「うふふ。私もラリサの事が大好きよ」

 病弱で、時々倒れてしまう。そんな母親だったが、ラリサは大好きだった。

 が、ある日――

「お母さん!」

 ――母親は、大量に吐血して、倒れた。

 母親は、駆け寄るラリサに対して、苦し気に言葉を紡いだ。

「……とうとう……この日が……来て……しまった……わね……。……ラリサ……聞いて……。あなたの……父親は……魔王……様……なの……」

「え!?」

 そして、母親は、何故自分が病弱になったか、何故今、自分が死に行くのかを、語った。

 魔王が、母親の母胎の中にいるラリサに対して混合呪術魔法を掛けたために、母親の身体に大きな負担が掛かってしまい、それ以降、病弱になり、余命幾許もない、という状態だったのだ。

 だが、ラリサを一人残して死ぬのが心残りで、精神力だけで耐えて、どうにか今日まで生き延びて来たのだ。

 しかし、とうとう限界が来てしまい――

「……ラリサ……。……私の……可愛い……ラリサ……。……愛して……いるわ……。……一緒に……いられ……なくて……ごめん……ね……。……どうか……幸せ……に………………」

「お母さん! お母さん!! いやああああああああああああああああああああ!!!」

 ――母親は死んだ。

 真実を知ったラリサは――

「……魔王……絶対に、許さないっす! いつか、この手で……お母さんの仇を……!」

 ――歯を食い縛り、涙を流しながら、魔王を殺して母の仇を討つ事を誓った。

 だが、〝忌み子〟であるラリサは、相変わらず地下牢に監禁されたままであり、敵討ちどころか、魔王に会う事すら出来なかった。

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