16
翌日。
レストランにて一緒にお茶をしている時に、ラリサが、勇者に言った。
「ジュディさんとは、どういう仲なんすか!?」
どうやら、大量菓子効果は一日しか持たなかったらしく、ラリサは、詰問する気満々だった。
勇者は、うんざりした表情を浮かべつつ、
「アイツが言った通りだ。魔王討伐時のパーティ仲間だ」
と言った。
だが、ラリサはそれでは納得しない。
「勇者さんの恋人じゃないんすか!?」
一生懸命睨んで来るが、全く威圧感が無いラリサを見ながら、勇者は、
「違うって言ってんだろ。俺たちは、あくまで〝仲間〟としかお互いの事を見ていない。異性として意識していないんだ」
と答えると、溜息をついた。
ラリサが、
「でも、ジュディさんは、巨乳美少女っす! 正に勇者さんの好みドストライクじゃないっすか!」
と指摘すると、勇者は、
「うっ……。それはそうだが……」
と、言葉に詰まる。
そんな勇者に対して、ラリサは、
「ほら、認めたっす! 他の子は騙せても、自分の目は誤魔化せないっす!」
と、勝ち誇ったかのように言う。
勇者は、
(また菓子を大量に買って黙らせるか……)
と思ったが、ふと、
(そうだ。もし、コイツが俺の事を本当に好きだと言うなら……)
と、何かを思い付いた。
そして、こう言った。
「ラリサ。お前は、俺の事が好きか?」
その問いに、ラリサは、
「勿論っす! 大好きっす!」
と、即答する。
すると、勇者は、
「そうか。俺の事を好きだと言う癖に、俺の言う事は全く信じてくれないんだな……」
と言って、俯き、悲しそうな表情を作って見せた。
それを見たラリサは、
「あうっ……そ、それは……」
と、返事に窮する。
勇者が尚も、
「俺の言う事を信じてくれないなんて、俺は悲しい……」
と、俯きながら、わざと悲しそうな声を上げると、ラリサは、
「わ、分かったっす! 勇者さんの事を、信じるっす!」
と、慌てて言った。
その直後、勇者は、
「そうか、信じてくれるか。ありがとう」
と、顔を上げた。
ラリサは、
「もう! そんな事されたら、そう言うしかないっす! 勇者さん、ズルいっす!」
と言って、むくれる。
勇者は、
「さて、何のことやら」
と言って左手でジュースを飲みながら、至近距離に空間転移して来たモンスターを、聖剣で一瞬で屠った。
プンプンと怒っていたラリサだったが、暫くすると、落ち着いたらしく、不意に、
「あ、そう言えば、魔王討伐の時って、勇者さんは何人で挑んだんすか?」
と聞くと、
「まさか、ジュディさんと二人っきりだった、とかないっすよね!?」
と、眉を顰めながら付け加えた。
「んな訳ないだろうが」
と言った勇者は、
「四に――」
と言い掛けた後、
「……いや、俺を含めて三人だ」
と、言い直した。
先程の演技と違い、勇者の目には悲しさと寂しさが見て取れる。
が、ラリサは、
「……そうだったんすね」
と、その理由は、聞かなかった。
そして、
「三人目の――もう一人の仲間は、どういう人なんすか?」
と、代わりに聞いた。
勇者は、気を取り直して、
「マイルズといって、筋骨隆々で、常に上半身裸でいる男だ」
と、答えた。
ラリサは、
「武闘家っすか。何か、物理攻撃に特化したパーティー編制っすね。勇者さんが後衛で魔法での支援に専念すれば、バランスは良くなるかもしれないっすけど」
と、珍しく賢そうな事を言った。
その言葉に、勇者は、
「ん? 何言ってるんだ? マイルズは、魔法使いだぞ」
と、言った。
ラリサは、
「そうっすよね。筋骨隆々の魔法使い……って、はい!? 今、魔法使いって言ったっすか!?」
と、思わず聞き返す。
勇者が、
「ああ、そうだ」
と、頷くと、ラリサは、
「でも、『筋骨隆々で、常に上半身裸でいる』って言わなかったっすか?」
と、聞いた。
勇者は、
「だから、筋骨隆々で、常に上半身裸でいる魔法使いだ」
と、答えた。
ラリサは、
「意味が分からないっす……」
と、混乱していた。
勇者は、
「まぁ、確かに見た目は、魔法使いっぽくはないな。だけど、腕は確かだ。魔法戦闘でアイツを倒せるのは、世界中で俺しかいない」
と、勇者なりの最大限の賛辞を述べた。
ラリサは、
「はぁ、そうなんすね……。不思議な人っすね」
と、呟いた。
勇者が、
「まぁな」
と呟いた。
――直後――
「!」
(来る!)
何かを感知した勇者は、
「『空間転移』」
と、即座に空間転移魔法を発動した。