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 物理・魔法を問わず如何なる攻撃も無効化すると分かっているラリサだが、ジュディが放つ圧倒的な殺気に、思わず目を瞑ってしまう。

「!?」

 ――攻撃が来ず、違和感を感じてラリサが目を開けると、ジュディは、ラリサ――ではなく、その背後に空間転移して来たデビルスコーピオン――砂漠に生息する蠍のような姿をしたモンスターで、体長二メートル程で毒を持つ――を一刀両断する。と同時に、デビルスコーピオンの身体は炎に包まれ、一気に燃やし尽くされた。

 それを見ていた勇者は、

「良いよなその魔剣。魔力を使わずに死体を処分出来るもんな。返り血の心配も無いし」

 と、心底羨ましそうに言った。

 しかも、普通の魔剣と違って、〝炎〟以外にも様々な属性があり、持ち主の意のままに剣に効果を付与出来るというおまけ付きだ。

 ジュディの店内にいる間は、勇者の至近距離に空間転移して来るモンスターは全て、ジュディが倒す、という事になっていた。

 下手に勇者が倒すと、迸る血で店内を汚してしまうからだ。

 勇者は、

「たまにで良いから、貸してくれよ、それ。店に来ると大体お前いなくて、他の子に店番を任せてるし、暇なんだろ? 使わない時だけで良いから」

 と、ジュディに言った。

 しかし、ジュディは、

「駄目よ。これは、あたしの剣なんだから。っていうか、この剣はあたし以外に使えないし。それに、あたしはちゃんと仕事してるから」

 と、答えた。

 そして、

「そんな事よりも、ちょっと、あんたと二人きりで大事な話があるんだけど」

 と言いつつ、勇者を見た。

 勇者は、

「分かった」

 と言うと、

「ラリサ、すまんが、少しの間、外で待っててくれないか?」

 と言った。

 ラリサが、

「二人っきりで何するつもりっすか!? 浮気はダメっす!」

 と言うと、勇者は、

「何もしねぇよ! っていうか、何が浮気だ! 意味分かんねぇし!」

 と、突っ込んだ。

 ラリサは、

「浮気は浮気っす! 変な事しちゃダメっすからね!」

 と、尚もギャーギャーと喚いていたが、勇者は、ラリサの背を押して――触れてはいなかったが――店の外に出すと、扉を閉じた。

 だが、尚も外から、

「浮気はダメっすよ! 分かってるっすか!?」

 と、叫んでいる声が聞こえる。

「はぁ」

 と溜息をつく勇者に向かって、ジュディは、

「可愛い子ね」

 と言いながら、空間転移して来たモンスターを薙ぎ払い、燃やし尽くして殺した。

 勇者は、

「そうか?」

 と、疲れた表情を見せた。

 すると、ジュディは、不意に真剣な表情になって――

「あの子、人間じゃないわよね?」

「!」

 ――と、低い声で言った。

 勇者は、

「……何でそう思うんだ?」

 と、聞いた。

 ジュディは、

「当たり前じゃない」

 と言うと、

「あんたと一緒に、毎日数え切れないくらいモンスターを命懸けで殺し続けて、魔王討伐までやってのけたのよ? このくらい直ぐに分からなきゃ、今あたしは生きてないわよ」

「………………」

 と、肩を竦めた。

「いくら可愛くても、あの子はモンスターよ? 何でモンスターと一緒にいるの?」

 と質問するジュディに、勇者は、誤魔化しても無駄だと思い、

「これには、訳があるんだ」

 と言うと、経緯を説明した。


 勇者が全て話し終えると、ジュディは、

「なるほどね。一ヶ月後――じゃなくて、あと三週間ちょっとで死んじゃうあの子の境遇に同情したって訳ね」

 と、言いながら、勇者が話している最中にしたのと同じように、突如出現したモンスターを一瞬で斬って、燃やし尽くした。

 勇者は、少しの間の後、

「……ああ、そうだ」

 と、答えた。

 尚、今までデートして来た人間の少女たちに馬鹿にされた事と、ラリサに慰められた事は、割愛して、話していない。

 ジュディが、

「それにしても、あんたの攻撃が全く効かないモンスターがいるとはねぇ」

 と言うと、勇者は、

「ああ、まさかそんな奴がいるなんて、夢にも思わなかった」

 と、言った。

 ジュディは、ラリサがその向こうにいるであろう扉の方を見ながら、

「あの子、本当に信用出来るの? 虎視眈々とあんたの命を狙ってるんじゃないの?」

 と、聞いた。

 勇者は、

「アイツは、どんな攻撃も効かない代わりに、誰にも攻撃が出来ないんだ」

 と答えた。

 が、ジュディは、

「それはあの子がそう言ってるだけでしょ? それが嘘だったらどうすんのよ?」

 と、尚も質問する。

 勇者は、少しだけ躊躇った後に、

「……大きな力には、まず間違いなく、何かしらの代償が必要とされる。だから、アイツが言っている事が嘘である可能性は低い。それに、アイツからは、敵意は全く感じない……けど、嘘である可能性も、ゼロじゃない」

 と答えると、更に続けた。

「でも、万が一何かあっても、俺が何とかする」

 その言葉に、ジュディは、

「何とかするったって、物理攻撃も魔法攻撃も効かないんでしょ? どうすんのよ?」

 と聞いた。

 勇者は、

「俺は無敵の勇者様だからな。何とでもしてみせる」

 と、言った。

 ジュディは、

「何それ? 答えになってないじゃない」

 と言いながら、空間転移して来たモンスターを瞬時に斬り伏せ、灰にする。

 勇者は、

「そろそろ行くわ。これ以上待たせたら、それこそアイツが暴れ出しかねんしな」

 と言って、扉の方へと歩き始めた。

 ジュディが、

「待ちなさい!」

 と、声を掛けると、勇者は、立ち止まって振り返った。

 すると、ジュディは、穏やかな表情で、

「ちゃんと週に一回、報告に来るのよ」

 と、語り掛けた。

 勇者は、

「ああ。今度はちゃんと、遅れないようにする」

 と、頷いた。

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