13
勇者たちが暫く走って辿り着いたのは、立派な外観の武器屋だった。
走りながら、空間転移して来るモンスターたちも倒し、しかし息一つ乱していない血塗れの勇者の後ろには、ぜぇぜぇと肩で息をするラリサがいる。
ラリサは、
「……自分は……ちょっと……休憩してから……行くっす……」
と言った。どうやら、余り体力は無いらしい。
勇者は、
「分かった」
と言うと、店の扉の前に立った。
ドアノブから提げられている看板には〝休業日〟とあるが、明らかに中に〝いる〟気配がする。恐らくは、他の客が来ないようにしているだけで、この扉に鍵は掛かっていないだろう。
そして、
(出来れば開けたくないが……でも、そうもいかないしな)
と思いながら、ドアノブに手を触れようとしたが、
「おっと」
と、自分の手――どころか、全身――が血塗れである事に気付き、
「『水』」
「『風』」
「『熱』」
と、以前行ったように、魔法で自分の全身に水を掛けて返り血を洗い流しつつ、熱風で一気に服を乾かした。
そして、深呼吸を一つすると、勇者は、意を決して扉を開けた。
短剣、長剣、斧、槍、などなど、様々な武器が棚に並ぶ店内に入ると、奥のカウンターへと続く、少し広くなった真ん中のスペースをゆっくりと歩きながら、勇者が、
「……おう、ジュディ。遅くなって悪かったな」
と呟き、店の中央まで辿り着いた。
――次の瞬間――
「あんた、あたしに喧嘩売ってんの!?」
「!」
――突如カウンターの更に奥――バックヤード――から現れた長いプラチナブロンドの巨乳美少女が跳躍したかと思うと、一瞬で勇者との距離を詰めて、剣で斬り掛かっていた。
見ると、ズボンにシャツという軽装の美少女は闘気を纏っており、勇者も咄嗟に闘気を纏いつつ、聖剣を抜いて攻撃を受ける。
「危ねぇな、お前! 今の、俺じゃなきゃ死んでたぞ!」
と、勇者が抗議するが、美少女は、
「約束破ったあんたが悪いのよ! 一週間に一回は顔を出しなさいって言ったでしょうが!」
と言いながら、更に闘気を膨張させる。
勇者は、
「忙しかったんだから、仕方ないだろうが! それに、さっき謝っただろうが!」
と言うと、その身を包む闘気が同じく膨れ上がる。
美少女が、
「あんた、四六時中モンスターに襲われてるんだから、定期的に生存報告でもさせないと、生きてるのか死んでんのか分かんないでしょ! それを欠かすなんて、言語道断よ! 死になさい!」
と叫ぶと、勇者は、
「言ってる事支離滅裂だぞおい!」
と突っ込んだ。
美少女が、
「問答無用!」
と言いながら、一旦勇者の剣を弾いて、自らの剣を振り上げた直後――
「待つっす! 二人とも、何やってるっすか!?」
「!」
店内に入って来たラリサが、二人を止めた。
美少女は、
「ふ~ん」
と、物珍しそうにラリサを見ると、剣を下ろして、腰の鞘にしまいつつ、
「今回ここに来るのが遅れた原因は、もしかして、この子?」
と、勇者に聞いた。
勇者は、無言で目を逸らしながら、聖剣を鞘にしまった。
それは、肯定しているのと同義だった。
美少女は、
「可愛い子じゃない。あんたがここに女の子を連れて来るなんてね」
と言うと、ラリサに微笑み掛けた。
「あたしは、ジュディ。この店の店長よ。コイツとは、魔王討伐の時に一緒にパーティを組んでいたわ。戦士としてね」
と自己紹介するジュディに、ラリサは、二人が矛を収めてくれた事に安堵しつつ、
「自分、ラリサっす!」
と、名乗り、勇者の傍にいるジュディに近付いて行った。
そして、ジュディの美しい顔と、自分にはない巨乳を見たラリサは、闘争心に火が点いたのか、こう続けた。
「あと、自分、勇者さんの恋人っす!」
その言葉に、ジュディの片方の眉がピクッと上がる。
すると、透かさず勇者が、
「誰が恋人だ!?」
と突っ込んだ。
ラリサは、
「自分の恋人になってくれるって約束したっす!」
と主張するが、勇者は、
「振りをするだけだろうが!」
と、叫ぶ。
ラリサは、
「振りでも恋人は恋人っす!」
と、譲る気はないらしい。
そんな二人のやり取りを見ながら、ジュディは、
「恋人……ねぇ……」
と呟くと、次の瞬間――
「!」
――瞬時に抜剣すると、高速でラリサに斬り掛かった。