12
その翌日。
勇者は、レストランにて、ラリサとランチデートしていた。
ただ一緒にランチを食べながら雑談しているだけなのだが、ラリサは、
「えへへ。勇者さんとデートっす」
と、何度も幸せそうに微笑む。
自分を嘲笑していた人間の少女たちと、自分との時間を何よりも大切にしているように見える目の前のモンスター。
勇者は複雑な気持ちになりながら、空間転移して来た火蜥蜴――炎に包まれた巨大な蜥蜴――を一瞬で殺した。
店を出て、空間転移して来るモンスターを倒しながら大通りを歩いている時、ふと、ラリサがもじもじしながら、意を決して言った。
「勇者さん、手、手を繋ぎたいっす!」
すると、勇者は、隣を歩くラリサを見て、
「駄目だ」
と言った。
ラリサは、
「え~!? 何でっすか!? 手を繋ぐだけっすよ!?」
と、膨れっ面で喚く。
勇者は、
「そんなの、今までデートしたどの子ともやってない。それに、別に手を繋がなくたって、デートはデートだろ?」
と言った。
ラリサは、
「それはそうっすけど……でも、繋ぎたいっす!」
と言った。
勇者が、
「それにお前、他人に触れられないだろうが。それなら意味無いだろ」
と言うと、ラリサは、
「意味はあるっす! 触れなくても、〝手を繋いでるような感じ〟がするのが大事なんす!」
と、尚も食い下がる。
勇者は、
「はぁ」
と溜息をつくと、
「何か食べたい菓子とか無いか? 露店で買ってやるよ」
と言った。
ラリサは、
「良いんすか!? やった~!」
と、はしゃいだ。
勇者は、何とか別の話題に変える事に成功して、
(やれやれ……)
と思っていた。
露店で勇者に買って貰った菓子を満面の笑みで食べているラリサを見て、ふと、勇者が、「そういや」と言うと、聞いた。
「一ヶ月後に死ぬってのは、どういう事だ? 何でそんな事が分かるんだ? 予知能力でも持ってんのか、お前?」
その問いに、ラリサは、
「自分、予知能力とかは特に無いっす。でも、自分が一ヶ月後――じゃなくて、もう数日経ったんで、あと三週間と少ししたらっすね――に死ぬって事だけは、何となく分かるっす」
と答えると、こう続けた。
「自分、相手に攻撃する事が出来ないから、相手に勝つ事は無いっす。でも、どんな攻撃も効かないっすから、負ける事も絶対に無いっす。それって、ある意味、無敵っすよね? そんな能力を、生まれてからずっと持ってるっすから、それ相応の代償があるっす。それが、早死にするって事っす」
勇者は、
「そういう事か」
と言うと、
「三週間と少し、か……」
と呟いた。
すると――
「あ!」
――何かを思い出した勇者は、顔面蒼白になった。
そして、空間転移して来たミノタウロス――牛の半獣人の怪物――を素早く斬り伏せながら、
「もう一週間経ってんじゃねぇか! ヤベー!」
と言うと、急に駆け出した。
ラリサが、
「どこに行くんすか!?」
と、必死に追い掛けて来るが、勇者は、
「急用を思い出したんだ! お前は先に宿に帰ってろ!」
と、後ろを振り返りながら叫んだ。
が、ラリサは、
「自分も行くっす! 何か行った方が良い気がするっす!」
と言って、尚も追い掛けて来る。
勇者が、
「お前は来なくて良いって言ってんだろ! 先に帰ってろって!」
と再び言うと、ラリサは、
「行くっす! むしろ、絶対に行くっす! これは女の勘っす!」
と言いながら、走り続けた。