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翌日。
勇者は、大通りにて、巨乳美少女を見掛ける度に、声を掛けていた。
だが、誰も首を縦に振らない。
更にその翌日。
昨日と同じく、勇者は、巨乳美少女たちに声掛けしていた。
が、全員に断られた。
そして、更にその次の日。
めげずに声を掛け続ける勇者だったが、この日も、成果は無かった。
「おかしい……どういう事だ……!?」
と、勇者は呟く。
無論、勇者も、これまで毎日デートをして来た訳ではない。
だが、いつもなら、一日中声を掛ければ、「じゃあ、来週末に」とか、「二週間後のこの日に」というように、一人くらいは、〝デートの約束〟を取り付ける事が出来るのだ。
それが、この三日間は全く出来なかった。
その間、勇者の様子を近くで見守っていたラリサは、
「これはきっと、神様が、自分とデートしろって言ってるんすよ!」
と言った。
勇者は、
「うるせぇ! んな訳あるか! って言うか、モンスターが神を語るな!」
と叫んだ。
その後。
夕陽が照らす中、とぼとぼと高級宿に向かって無言で勇者が歩いて行く隣で、ラリサが、
「元気出してっす! 勇者さん!」
と、励ましながら歩いて行く。
すると、十字路を通り過ぎた直後――
「やっとみんなで集まれたわね」
「それにしても、あんた、あれだけ偉そうな事言っておいて、〝勇者チャレンジ〟に思いっ切り失敗してるじゃない」
「うるさいわね! 絶対上手く行くと思ったのに! あの男のせいで!」
――路地裏から、少女たちの声が聞こえた。
〝勇者〟という単語と、聞き覚えのある声に思わず立ち止まった勇者は、
「『感知』」
と呟き、感知魔法を発動した。
勇者の〝視覚〟が自身を中心に全方位に広がって行き、前を向いたまま、路地裏の方へ戻る事も無く、路地裏にいる少女たちの姿を捉えた。
十一名の巨乳美少女たちの中に、先日デートした赤髪美少女がいた。
更に、その前日にデートした緑髪美少女もいる。
他の少女たちを注意深く見れば、どの子も、以前デートした事がある子ばかりだ。
赤髪美少女は、
「はい、これで良いんでしょ」
と言うと、銀貨を一枚ずつ、他の少女たちに渡した。
赤髪美少女が、
「ああ、もう、苛々する!」
と、声を荒げると、緑髪美少女が、
「まぁまぁ。〝勇者とデートして、デートが終わるまでモンスターが現れなければ勝ち〟なんて、そもそもの条件が厳し過ぎるのよ」
と、慰めた。
「未だに誰一人として達成してないしね」
と、他の少女が言う。
緑髪美少女が、
「それで、デートはどうだったの?」
と聞くと、赤髪美少女は、鼻で笑った。
「あの男、私が好きでデートしてると思って、テンション高くて、ノリノリだったわ。嬉しそうな顔が痛々しくて、それが可笑しくって、笑いを堪えるのが大変だったんだから」
「分かるー!」
「笑えて来るよね!」
他の少女たちが頷くと、赤髪美少女は、続けた。
「目の前で見て改めて思ったけど、モンスターを呼び寄せるとか、本当、意味分かんない。魔王を倒した英雄? は? 何言ってんの? って感じ。王都にモンスターを呼び寄せるなんて、魔王以上の化け物よ、アイツは! 誰か討伐してくれないかしら?」
「キャハハハハハハ! 確かに化け物よね!」
「キャハハハハハハ! 勇者を倒すための討伐軍編制とか、面白過ぎ!」
大通りまで、少女たちの笑い声が響いて来る。
魔王を倒した直後は、本当に勇者とデートしたいと思った少女ばかりだったのかもしれない。だが、数ヶ月も経てば、王都中に〝血塗れ勇者〟の噂は広がる。
その後はきっと、こうやって、賭けの対象として遊びに使われていただけだったのだろう。恐らくは、ここにいる少女たちのグループだけでなく、他にも同じような事をしていた子たちがいるのだ。
黙って少女たちの話を聞いていたラリサは、怒りで顔を真っ赤にして、
「ちょっと、ガツンと言って来るっす!」
と言って、路地裏へと歩いて行こうとした。
勇者は、空間転移して来たモンスターを一刀両断しつつ、
「やめろ」
と言って、止めた。
ラリサは、振り返ると、
「でも、あんな事言うなんて、許せないっす!」
と、尚も路地裏へ向かおうとした。
すると――
「やめろって言ってんだろ!」
「!」
――声を荒げた勇者に、ラリサは目を見開き、立ち止まった。
そして、
「……行くぞ……」
と、静かに呟いて歩き始めた勇者の後ろを、ラリサは黙ってついていった。




