9
そして、翌日の昼。
勇者は、約束通り、ラリサをデートに連れて行った。
昨日とは別のレストランのテラス席に座る勇者。
その隣には、ラリサ。
そして、勇者の向かいには――赤髪ロングヘアの巨乳美少女。
ラリサは、自分抜きで巨乳美少女と談笑する勇者に対して、
「いや、確かにデートに連れて来て貰ったっすけど、これ、自分のデートじゃなくて、他人のデートじゃないっすか!」
と、突っ込んだ。
しかし、勇者は、「これはあくまでも、俺と巨乳美少女との二人きりのデートだ」とでも言わんばかりに、徹底的にラリサを無視していた。
「いい加減に……!」
と、ラリサが、怒りでわなわなと震え出した。
――次の瞬間――
「グアアアア――ガハッ!?」
ラリサの直ぐ後ろに突然現れたオーガ――鬼の半獣人のモンスター――を、聖剣で一刀両断した勇者は、透かさずラリサの両脇の下に手を入れて持ち上げて――触れない(代わりに、何か透明で無機質な薄い金属のカバーのような物に触れているような感覚がする)が、持ち上げる事は出来るらしい――オーガ(の死体)とラリサと自分とデート相手が一直線になるようにする事で、デート相手に返り血が掛からないようにすると同時に、自分自身も血で汚れないようにした。
これが、〝ラリサを盾代わりにする〟という、勇者が思い付いた作戦だった。
思った通り、ラリサが返り血を弾くため、ラリサよりもこちら側には、一切血が飛んで来ない。
(完璧だ!)
と思った勇者が、ラリサを下ろしつつ、
「大丈夫だったかい?」
と言いながら、赤髪ロングヘア美少女の方を振り向くと――
「きゃあああああああああああ!」
「!?」
――勇者の努力虚しく、悲鳴を上げる赤髪美少女の姿があった。
逃げ出そうとする彼女を見た勇者は、必死に呼び止める。
「え、な、何で!? ま、待ってくれ! その内、モンスターが全部いなくなるまでの辛抱だから! 頼む! あと十年待ってくれ!」
「そんなの、無理いいいいいいいいいいい! いやあああああああああああ!」
勢い良く走り去って行く赤髪美少女。
取り残された勇者は、呆然としながら、力なく呟いた。
「デート相手も俺も、両方とも返り血を浴びない、完璧な作戦のはずだったのに……何でだ!?」
すると、先程の怒りはもう静まったらしいラリサが、
「……勇者さん、意外とアホなんすね……」
と言った。
馬鹿にされた勇者だが、怒る気力もない様子で、ラリサを弱々しく見やる。
ラリサは、
「返り血とか、そういう問題じゃないと思うっすよ?」
と言うと、こう続けた。
「多分、普通の女の子は、モンスターが現れて、それを目の前でスプラッターにされて、ってのが耐えられないんだと思うっす」
そして、最後に、
「それに、そもそも、デートに他の女を連れて行くってのも、相手の女の子的には、無しっすよ?」
と、付け加えた。
勇者は、
「……うるせぇ……」
と、小さく呟くと、金を払って、店を後にした。
ラリサは、大通りを歩く勇者の隣を歩きつつ、
「その点、自分だったら、目の前で勇者さんがどれだけモンスターを倒しても、全然平気っす! どうっすか? オススメ優良物件っすよ!」
と、科を作ってアピールした。
「……誰がモンスターなんかとデートするかよ……」
と、勇者は呟いた。
ラリサは、
「もう、そんな事言わないで欲しいっす~! デートしたいっす~! 一ヶ月だけっすから~!」
と、尚も食い下がる。
が、勇者は、無視して歩き続けた。
(次は……次こそは……!)
と、思いながら。