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「さあ、物語を進めようか。我々が脚本を書けば、現実世界の作者が筆をとってくれるはずだ」
「はい。ではどのように脚本を進めましょうか。適当に魔王でも用意します?」
私は二階堂さんにストーリーの提案をしました。
ですが、二階堂さんは首を横に振ります。
「魔王なんか出さなくていい。それより、この作品のタイトルを覚えているか?」
「あ、はい。えーっと『異世界で追放された俺は最強治療魔法で無双する ~町娘もお嬢様も獣人娘も俺にメロメロ。もふもふ大混乱ざまあ選手権~』です」
「ふむ。タイトルにある『町娘』『獣人娘』がまだ出てないな。『もふもふ』『ざまあ』もまだだ。とりあえず、このあたりを埋めていくぞ」
「了解です」
◆ ◆ ◆
私と二階堂さんは、主人公たちの行く先に先回りして準備を進めます。
『安いよ安いよ~! かわいいかわいい町娘の奴隷が、なんと1000円! 1000円だよぉ~!』
『今ならかわいいワンコもついてくるよ! お買い得だよ~!』
私たちは主人公一行に向かって必死にアピールをします。
町娘の奴隷を買うと、もふもふのワンコがついてくるという作戦です。
これで一気に『町娘』と『もふもふ』の二つの項目を埋めることができます。
『ん? 奴隷が安いってよ』
『なによ。奴隷が欲しいの? どうせスケベなこと考えてるんでしょう』
お嬢様が主人公のことをジト目で見ます。
ああ! 主人公が不貞腐れてしまいました。
「追うぞ! 三浦隊員!」
「もちです!」
主人公の行く先まで走ります。
そして、またチンドン屋のごとく騒ぎ立てます。
『かわいい町娘! これが大変な器量の持ち主! それがたったの1000円で、今なら人間一人が1000円だよぉ~』
『ワンコは血統書付きで、曲芸、狩り、夜のお供、なんでもござれの器用なワンちゃん。このワンチャンスをものにして~!』
『さあさあ、見なきゃ損損! 今ならお買い得~。価格破壊の500円だぁ~!』
こうなれば、やぶれかぶれの啖呵売。
なんとしてでも興味を引かなければなりません。
すると、私たちの必死の想いが通じたのか、お姫様がつぶやきます。
『身の回りをする役目の人は必要かもしれませんね。ちょっと行ってみましょうか』
よし!
主人公たちがこちらにやってきました!
『奴隷をお求めですね? どうぞ、こちらのテントへ』
『あれ? お姉さん、前にも会ったよね?』
『なんのことかわかりませ~ん。とにかく中へどうぞ~』
無理やりテントの中に押し込みます。
あとは奴隷商人さんにお任せです。
◆ ◆ ◆
テントの中には、本職の奴隷商人さんと何人かの女性がいます。
実は全員が町娘というわけではありません。
ですが、二階堂さん曰く、主人公たちが町娘だと思っていれば問題ないとのことです。
奴隷商さんが女の子を勧めます。
『どうですか。この町娘は。顔もスタイルもいいですし、家事全般こなせます。魔法の腕も大したもので、すでに大魔法使い級ですよ。もちろん処女です』
『うん。じゃあ、この子で』
主人公はあっさりと決めました。
まあ、これだけすごいスペックの女の子ですから当然でしょう。
「うまくいきましたね。でもちょっと違和感ありますよね。こんな優秀な奴隷を一見の客に安値で売るなんて、普通はあり得ませんよ」
「大丈夫だ。異世界ものの小説に出てくる奴隷商人は全員節穴というのが定番だ。これくらのご都合主義なら作者も読者も許してくれる」
そのまま、セットの犬も手に入れた主人公たちは、仲間を一人加えて再び旅に出るのでした。
兎にも角にも、これで『町娘』『もふもふ』はクリアです。
◆ ◆ ◆
夜。
主人公一行は、またもやキャンプをしています。
今回はカレーではなく、川で釣ってきた魚です。
無駄に主人公の剣技で魚を捌いたりとかしています。
『やるじゃない! これでお刺身の完成ね』
『うん。これを醤油で食うとおいしいんだ』
どこから醤油が出てきたのでしょうか。
マヨネーズほど簡単には作れませんよ、醬油は。
それよりも川魚を刺身にして食べるとは、なんとも斬新。
「止めますか? 寄生虫がいた場合、大変なことになりますよ」
「大丈夫だ。腹を壊して足止めなんていう地味な展開は起きない」
そうでした。
ここは小説の中。
川魚を生で食べたくらいでは問題になりません。
「それよりも、どうするんですか」
「なにがだ?」
「『獣人娘』ですよ。ここからさらに人員を増やすんですか? もう奴隷を買う手は使えませんよ」
「ふっ。心配いらない。見てろ。その問題はすぐに解決する」
二階堂さんはそう言って、不敵に笑いました。
一体どういうことなんでしょうか。
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