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 「ほら、見ろ。さっそく主人公が真の能力に目覚めたぞ」

 

 主人公のほうを見ます。

 どうやら、突然能力に目覚めたらしく、体がキラキラと輝いています。


 「あ、あの、これって最初っから有能な設定じゃ駄目だったんですか? こんなにすぐに能力が開花するなら、最初から能力に目覚めててもいいような……」


 「ダメだ。さっきも言ったが、絶望から這い上がっていく様が痛快なんだ。それに自分のことを虐げていた連中をあとから見返すという展開も人気だな。要するに、「主人公はこんなに優秀だったのに、お前ら見る目無かったなぁ~」みたいな煽りをしたいんだよ」


 「そ、それが人気って、読者の心が荒み切ってませんか。卑屈っていうか、陰気っていうか……」


 私がツッコミを入れると、二階堂さんは深くため息をつく。


 「いいか。『小説家になろう』の読者は、現実世界で抱えている鬱憤うっぷんを晴らすことが目的で作品を読んでいるんだ。この作品の作者もそれがよくわかってるから、その需要を満たすための展開作りをしているに過ぎない。ようは需要と供給なんだよ」


 「はぇ~。そうなんですね。また勉強になりました」


 私はなろう小説がなんたるかについてよくわかっていません。

 普段は普通の小説しか読んでいないので、なんだか新鮮です。


 「おい。主人公が冒険者ギルドに向かったぞ。俺たちも行こう」


 「了解です!」


◆ ◆ ◆


 場所が変わって、ここは冒険者ギルド。

 私と二階堂さんは冒険者に変装して主人公のことを見守ります。


 「見ろ。主人公が受付でステータスの確認をしているぞ」


 「なるほど。ここで主人公が最強だったと周知されるんですね!」


 「……いや、それはどうかな」


 二階堂さんは目を細めています。

 どうやら、ちがう展開になると予想しているようです。

 どうなるのかと見守っていると、主人公が騒ぎ始めました。


 『どうですか僕のステータスは!』


 『う~ん。魔力はたったの8です。ちょっと低いですね』


 『は、8!? そんなに低いんですかぁ!?』


 主人公は自分の魔力の少なさに肩を落としてしまいました。


 「あれ? やっぱり主人公って無能なんですかね?」


 「いや、ちがう。あのステータス画面をよく見ろ」


 「……ええ? ああ! 魔力8じゃなくて、魔力∞って書いてありますよ!?」


 「そういうことだ。おそらく、この世界には無限∞という概念がまだないのだろう。だから、ギルドの職員も∞の文字を見て「8」だと思ってしまったというわけだ。これで、主人公が無能であると周知された。本当は優秀なのに、無能だと誤解されている。これをどうやって正していくかがこのストーリーの醍醐味なんだ」


 「わぁ! 私もなんだかワクワクしてきましたよ!」

 

 主人公はうなだれながら冒険者ギルドをあとにしました。

 ですが、私たちは知っています。

 彼がこのあと無限の魔力で大活躍することを。


 主人公さん、気を落とさないで~。

 あなたはこれから活躍できますよ~。


◆ ◆ ◆


 主人公は図書館へと立ち寄る。

 ストーリーの都合上、ここで禁書を読み、自分の能力の使い道を知るという展開になっています。


 「禁書を読むんですか。面白そうな展開ですねぇ」

 

 「まずいな……」


 二階堂さんが苦い顔をします。

 なにか問題があるのでしょうか。

 もちろん、禁書を読むのは禁止されているわけですが、これは物語の都合上、仕方がないことのはずです。


 「二階堂さん、なにがまずいんですか」


 「普通に考えてみろ。禁書がそのへんの本棚にあるはずだない。この小説ではそのあたりに対するフォローがまったくない」


 「ああ! たしかに!」


 「ふう。どうやら、我々の出番のようだ。準備はいいか? 三浦隊員」


 「りょ、了解です!」


 いよいよ、私たちが作品の登場人物たちに関与するときがきました。

 うう……緊張します!


 『え~っと禁書はどこかな~』


 主人公が禁書を探しています。

 なぜ禁書を探しているのかとか、なぜ禁書の存在を知っているのかとか、いろいろとツッコミどころはありますが、それは置いておきます。

 今は物語の整合性をなんとかしなくてはなりません。


 私と二階堂さんは主人公の近くまでいき、禁書の在り処についての情報をわざと口にします。


 『おい。ミウラ。なんでも、この図書館の地下の部屋のそのまた奥の部屋には、禁書があるらしいぞ』


 『え、ええ~。禁書ですかぁ。でも、禁書は誰にも読めない文字で書かれていますから、私たちが読んでも無駄ですよぉ~』


 『そうだな。そんなものを読もうとするのは、よほどの物好きしかいないだろう』


 『そうですね~。私たちには無用の長物ですね~』


 それだけ話すと、私たちは主人公の近くから離れます。

 役目は終えました。

 これで主人公は禁書の在り処がわかったでしょうし、ほかの誰かが邪魔することもないことを示せました。


 「ふ~。緊張しました」


 「三浦隊員。まだ演技がぎこちないな」


 「す、すみません……まだ四回目なんで……」


 「まあいい。さあ、俺たちも主人公のあとについて行って物語を見守るぞ」


 「了解です!」




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