新生活!!
窓から光が入ってくる。カーテン越しのやんわりとした光は部屋を暗くなくするほどだが、朝を感じるには、ちょうどいいや。僕は大きく伸びをする。視界には、まだ見慣れない天井が広がっている。
「そういえば、引越ししたんだっけか。」
呟いたその一言で、頭が覚める。起き上がりカーテンを開けると、そこには住宅街がある。同じくらいの、と言っても小学六年生ほどの背格好の、帽子を被った子どもが、走っていった。犬と一緒に歩くおばあさんに会釈をしている。
久しぶりに、僕も走ろうかな。よし!!思い立ったらなんとやら。早速走りに行こう!!
ぐ〜、と間の抜けた音が鳴る。そういえば、昨日は晩ごはん食べてなかったなぁ。とりあえず走るのは後回しにしようっと。まず朝ごはんを食べないとねっ!!
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朝ごはん食べてる時に思いついたけど、僕も今は女子だから、ごはんのひとつやふたつぐらい作れた方がいいよね?男子に戻っても作れて悪いことはないし!!
「叔母さん。」
「叔母さんなんてのも堅苦しいわね……莉子さんとお呼び!!」
むぐぐ……
「莉子さん、僕に料理を教えて。女子になったんだから、作れた方がいいと思うから。」
「そんなに改まらなくても、もっと砕けていいのよ?まぁ、教えてあげるわ。」
やった!!
「ただ、女子だから、なんて言うのはちょっと納得できないわね。朱里ちゃんがダメ人間みたいじゃない。普通に手伝ってくれていいのよ?」
「うぐ……」
「とりあえず、今日はもうできてるから、食べちゃいなさい。朱里ちゃん、起こしてくるわね。」
「は〜い。」
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この前、公園で遊んだのと同じ服を着て、ドアを開ける。さすがに靴はピッタリのやつ買わないとなぁ……靴が擦れて若干痛い。今度、近くのショッピングモールにでも行ってみよっかな。
「ちょっと走ってくるね〜。」
「迷子にだけは気をつけなよ。絶対だよ。」
「分かってるって。」
もう中学生で子どもじゃないんだから。見た目は子どもだけど。それにしても、やけに念を押してたような。
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僕は今よりも小さい頃、何回か来たことこそあるけど、それでも知らない土地なわけで。
「ここ…どこ……?」
迷わないわけがないよね。しょうがない。うん。知らない土地ではしゃいで、遠出してはいけない。心にそう深く刻んだ。
……僕が知ってる建物を見つけないとなぁ。それか親切な人。ただ、早朝の住宅街で人はいないなぁ。そういえば、迷路では左手の壁沿いに進んで行けば、ゴールにたどり着けるんだっけ。ちょっとダメ元で試してみようかな。
そんな馬鹿なこと考えてるうちに、起きた時に家の前を走っていった人が、角から出てきた。
「すいませんっ!!」
その人は立ち止まってくれた。知らない人から声掛けられたのに、とても親切な人だ……
「ちょっと道に迷っちゃって。家に帰れないんです。教えてくれませんか?」
「うん、いいよ。おうちはどこにあるの?」
「引っ越してきたばかりで分からないんです…」
「引っ越してきた……そういえば、トラック止まってたな。もしかして、名字は福本だったりする?」
「そうです!!」
その人はニッコリと微笑んで、
「家が分かったよ。案内してあげるね。」
親切な人で良かったぁ。
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その人に家まで案内してもらった。結果的に走れたし、無事に帰れたので、最高だね。姿を隠さなくていいって清々しいね。
その人は、走り去っていった。速いなぁ。もう背中が見えない。
「あ、お礼!!」
忘れてた。やっちゃったなぁ。そういえば、名前も聞いてないし、帽子を深く被っていたから顔すら分からなかったけど、また会えるかな?毎日走っているっぽいし、また会えるでしょ。
今度あったら、お礼を言わなきゃね。