ゲーム開始時の低い体力ほど恨めしいものはない
「では、グループ分けを行います!各自、事前に配布したビブスの番号を確認して下さい!尚、ビブスを今持っていない方は係の者に番号を聞いて下さい!確認が済んだ人からチームメンバーで固まって下さい!」
あっ、と言う間にグループ分けが書かれた表に蝗が如く群がって行く少年たち。
おお、人が蟲のようだ。なんだか、ちょびっと優越感。
「えーっと、ワイは77番、ジョージはんは18番、サトーは214番、皆、一緒になれるとええんやけどなぁ」
お気付きでしょうか。
一人だけ番号の桁が違う人物がいることに。
そう、何を隠そうそれは私で~す。
なにこのハブられ感。
別にいいし、何となく理由分かってるし。
恐らく、このビブスの番号は総合能力値が高い順に並んでいると推測される。
同じ学校所属の俺と円城寺の番号が隣り合っていない時点で変な気はしていたが。
上記のように考えると納得が行く。いや、納得したくないけども。
それにしても、炎上マンで18か。
コイツも能力値はバリ高い筈なんだが、それより上に10人以上いるって・・・
俺オワタな。見切りは大事。決して諦めなどでは・・・ない。
などと、軽くぜつぼ、哲学しながら長蛇の人混みを待っていると、漸く表の前まで辿り着けました。
どれどれぇぇ、ちょいとおじさんに見せてごらんよぉ?ちょっとだけ、ちょっとだけだからさぁぁぁ。
「えーつと、214,214、あ、あった。どれどれ」
グループM 18、25、48、77、101、124、149、180、185、201、214
はい、見事に三人で同じグループでした。
ゲームだからと言ってこのご都合主義は如何なものかと。
まぁ、俺にとって悪いことではないから別にかまんけどな。
グループMのメンバーが集まった。
それから、我々荷物を取って来いと言われ、一先ず取って来ました。
タオルと飲み物持って来たのはムダデシタネ・・・
「よし、じゃあ今からランニングな。別の会場まで」
グループ担当コーチの一言に野球帽を地面に叩き付けなかったのは偶然と言って良い。
なぜなら、
「オウオウオウ、それはどういうことだっぺよ!」
俺の代わりにヤンキー少年がコーチに噛み付いたからである。
それにしても小学生でオールバックとは、将来の彼の生え際には不安が残るが、正直他人事である。
「201番、鬼澤。不服を覚えるのは勝手だが、今行われているのが選考会であることだけは肝に命じておけ。これ以上はナシだ」
「チッ!」
これは「上司の命令は絶対だよ、新入りくぅぅん」な新入社員研修プログラムその1:洗脳導入ではないか!
まず、ここで自尊心の高い奴、扱いにくい奴の鼻っ柱を先制パンチで叩いて起き、上意下達スタイル形成の下地とする気だな?
恐るべし、選考合宿。まさか、こんな所で日本社会の縮図を用意するとは・・・
「荷物は専用車を用意したから載せておけよ。全員の準備が確認できたらスタートするぞ」
ゴール地点などの情報はない、みたいっすね。
一体どのくらい走らされるのだろうか。戦々恐々ですが、とりあえず頑張りませう。
□
「よし、ランニングを始める!」
コーチさんがタタタと走って行ってしまった。
まぁ、無理せずやろうか。
「佐藤、どちらが先にゴール出来るか勝負だ!」
案の定、炎上マンが出火しだした。
飛び火も大概にして欲しい。
「あいあい、分かった分かった。俺は自分のペースで走っから、オメーも好きに走れや」
ここで、勝負を拒否しようものなら、安定の粘着が始まる。
重要なのは、否定も肯定もしないことだ。
このあほちんはそれで片が付く。
ただ、ガールフレンドに「どちらが良い?」と尋ねられた時「どちらでも良い」と答えようものならば、君の御先には暗礁に乗り上げる未来が待っているから気を付けてな!
知ってるかい?選択肢2つってやつは実質強制一択なんだぜ?
「負けないぞーーー!!」
勢いよく前に飛び出していくアホ。
あれでよくバテんものだなぁ、とそこだけは感心する。
おろ? 猿渡が寄って来た。
「比較的マトモや思とったけど、ジョージさんも結構アレな感じか?」
「もってなんだ、もって」
「いやぁ、そりゃあなぁ」
そんな日本人お得意の誤魔化し笑いが効くような俺じゃないぞ。
如何に常識人ぶろうと貴様も業を抱えているのだ、上から余裕の見物はさせんぞよ。ほら、死なば諸共って言葉があるでしょう?(ニッコリ)
「随分と余裕そうだな、77番猿渡、214番佐藤」
魔王もかくやという腹の底から響く声に、自分の立場を思い出す罠。
てか、アナタ走って行きませんでしたっけ?
何故、後ろに?
「・・・・・・」
無言の圧が。
やばすやばす。
「ういっす!スンマセン!」
ぴゅーっと緊急回避ぃぃ。
おーい、円城寺君や、一緒に走らないかい?
「あ、サトやん待って~な~!」
誰がサトやんじゃ。
あ、後ろから静かな鬼が。
もしかして、このペースで走れってこと?
そりゃないぜ、トホホ。
◇
「ハァ、しん、ど、ハァ」
「サト、やん、ヒッ、ドイやん。置い、て、く、なんて」
なんとか、なんとか、走り切りました。
途中で何度も足を止めたくなりました。
この選考合宿なるものに私めを呼んだ大人共を恨みました。
ついでにウチの駄目な監督にはお土産を頼まれていましたが、忘れることにしました。
「佐藤、今回も俺の勝ちだな!」
そう言って仁王立ちするウザキャラに構う余裕も今の佐藤くんにはない訳で。
てか、なんでそんなに元気なのオマエ?
俺たち同じ距離走って来た筈だよな?
ショートカットしましたよね?
お願い、したと言ってくれ・・・
「な、ちょ、大丈夫か?えーっと、飲み物は、あった!ほら、これ」
気が利くじゃないか、炎上野郎から少しだけ格上げしてやろう。
あー、天国。
「ブッ、ブフォッ、ビヒュルッ、フゴッ!」
なんだ、このはしたない息遣いは。
振り向くと、そこにいたのは一匹のトド、否、死体だった。
スゲーデカい。
六年生にして一七〇近い俺よりも更に一回りほど縦横ともにビッグなスケールだ。
ビブスの番号は、っと、185番ね。
何か、自分より悲惨な奴を見ると心に余裕が生まれるよな。
「ほい、これ飲んで落ち着き」
「あ、ありがど。ゴキュッ、ズズズズズーーーッ、ブホォッー!」
うん、何と言うか絵面が酷いな。
音もだいぶお下品だし。
「あ、佐藤! 俺の飲み物だぞ!」
「わりぃわりぃ。しゃーねーだろ?あんな死に体なの見てたらつい、な。後で俺の持って来た奴渡すから勘弁してくれや」
「むーっ、仕方ないな。今回だけだぞ!」
イケメンのデレはいらんのですよ。
誰か、早くおんにゃのこキャラをををを。
あ、トドくんが復活した。
「ありがとう。助かったよ」
「いんや、礼ならこっちのイケメンに言ってやってくれ。俺はブツを横流ししただけだ」
ん、言葉にすると俺のやってること最低だな。
まぁ、それで人一人メディックできたんだから善とせねば。
「あ、そうだったんだ。ありがとう」
「別に、俺は佐藤に・・・」
こう見えて円城寺はシャイボーイと言うか人見知りが激しいお年頃なのである。
タメのメスどもからは、「そんな所がイイ!」だったり「萌え死にする・・・」だったりと、やたら評価が高いのだが、俺から言わせれば所詮「(イケメンに限る)」んだろって感じ。
「あ、自己紹介しようぜ。俺、佐藤 大地。ポジは投手な。このクソイケメンは円城寺 投解流でこれまた投手。で、そこで横たわってんのが猿、ポジは捕手以外の野手全般な」
「ちょっ、サトやん!そりゃないで!」
「だまらっしゃい!誰がシュガーマンだ!」
「誰もそんなん言ってへんやん・・・。あ、ワイの本当の名前は猿渡 文貴な。よろしゅうに」
「ぼ、ぼくは砥部 飛丸。ポジションはキャッチャーとちょっとだけファースト。よろしくね」
砥部 飛丸かぁ。
初見キャラだな。
見た感じパワー一辺倒系なんだろうけど、どうなんだろう。
「よし、休憩も済んだな。では、早速練習に入るぞ」
鬼や!
鬼がいる!
佐藤 大地 は 抗議 の 視線を 送った。
コーチ は 佐藤 大地 を 見つめ返した。
佐藤 大地 は そっと 目 を 逸らした。
コーチ の 評価 が 下がった。
何と言う鬼畜。
これはチェンジ待ったなしですわ!
佐藤 大地 の 体力 が 減少 した。
円城寺 投解流 の 友好度 が ちょびっと 上昇 した。
猿渡 文貴 の 友好度 が ちょびっと 上昇 した。
砥部 飛丸 の 友好度 が ちょびっと 上昇 した。
コーチ の 注目 が ちょっぴり 傾いた。
佐藤 大地 12歳 身長169cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX98km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》《度胸》《太胆浮敵》
称号:《益荒男》
好敵手:円城寺 凪解流
敵 :乙女たち
仇敵 :神界 真