善意には善意を、冷淡には情熱を
「うへー、でっけえなぁ~」
「・・・うん、大きいね」
ワイとクソイケメン赤髪野郎が圧倒されているのは『嗚呼、我が野球人生』におけるプロ十二球団の中でも一、二を争う人気チーム《レッドジャッカルズ》のホーム球場。
正式名称:東京赤丸スタジアム。通称:トウアカである。
古き名門の伝統なのかどうなのか、空気に重みと言うのか、締まりと言うのか、そう言った類のものを感じる。
別に、古臭いとか、堅苦しいとかディスっている訳ではない。
ただ、何となくだが、ここは好みではないなぁ、と思ってしまう自分がいるのだ。
能力で例えるならば、《トウアカ△》と言った所だろうか。
逆に、炎上Gの瞳をは静かに闘志を燃やしている。
この球場と相性が良いのかもしれないが、そのイケてる横顔は何か腹立つ。
「そいじゃ、さっさと受付しとこうぜ」
ノッシノッシと球場入口へGO!
「あ、そうだね」
と言いいながら付いて来るヤツに見惚れる少女複数。
グヌヌ、顔面力による格差とは、かくも甚だしいものなのか。
ふと、前世での親友の嘆きを思い出す。
「女はさぁ、勉強できなくても、運動が不得意でも構わないから優しい人がイイって言うけど、それってイケメンに限る、って語尾が隠れてるよな」
当時、俺が知る限り十数度目の玉砕で自棄酒に溺れていた彼の言葉が今になって凄く心に沁みるのだ。
友よ、あの時はテキトーに聞き流してごめんな。
ちょいと悲哀に浸りながら歩を進めると、受付らしき一角に到着。
ピシッとしたスーツ姿って格好良いな、と思う今日この頃。
キリッとした眼鏡お兄さんが声を掛けてくれました。
「おはようございます。早速ですが、通知書の提示をお願い致します」
すごい事務的でした。
まぁ、それが事務と言うやつですよね。
とりあえず、家に送られて来た通知書なるものをエナメルから引っこ抜く。
多少皺がついているのはご愛嬌で。
「頼東小学校から来ました、佐藤大地です。よろしくお願いしまっす!」
「はい、少々お待ちください」
クールだぜ。。。
ちょっと寂しい。
名簿にチェックを入れるとメガ兄さんが笑った。
「今回の経験が君の人生において大きな糧になることを祈っているよ」
はぅ
あ、危なかったぜ。
俺が女子だったら危うく惚れちまうところだった。
にしても、今のがギャップ萌えっちゅう奴か。
女子共がキャーキャー言うのも分からんでもないな。
「これが君のビブスだ。頑張れよ」
これだけでご飯三杯は余裕っす!
はっ!
俺は一体何を?
因みにENJOY寺はイケメンぱうわーで相殺したのか、何ともなってなかった。
ちょっと負けた気がして悔しかったです。
□
誘導係の人にロッカールームまで案内されると、既に幾人もの野球少年が揃っていた。
「じゃあ、準備が出来たらグラウンドに出て来るように、ね? それと、持ってくるのはタオルと飲み物だけで良いから」
誘導係さんはそれだけ言って戻って行った。
忙しいのだろう、なんだってこの合宿の参加人数は200人を越えるのだそうな。
よくよく考えると、そんな大人数で選考会なんてまともに出来るんかい!と突っ込みたくなる。
「お、ニューカマーやないか。はよ、こっちきぃーや」
ぬ、この気安い関西弁、こやつ、もしや。
「ワイは猿渡文貴。ポジションはピッチャーとキャッチャー以外なら何処でもカマンや。よろしくな!」
クリっとした円らな瞳。
緩やかな弧を描く口元。
見事にデフォッた猿が其処に居た。
NPCモンキーかい!
よりにもよってなんで、コイツやねん!
クソッ、メインポジ投手なのが恨めしすぎるぅぅぅ!
その場に膝をつく俺の姿はさぞや迫真ものだったことだろう。
これにはそれなりの理由がある。
猿渡 文貴
『嗚呼、我が野球人生』において登場するキャラクターたちの中で恐らく三本の指に入るであろうユータリティプレーヤーの名である。
内野で複数のポジションを熟す、ミドル・インフィールダーならばそれこそ数百でも千でも『嗚呼」内では存在するが、ユータリティプレイヤーとなるとその割合は激減する。
しかも、どのポジションも等しく高い水準で熟せるキャラクターとなるとその中でも更に一握りの稀少性を誇る。
そして、そんなレア中のレアキャラとのタッグ練習やイベントが美味しくない訳がないのだ。
猿渡の場合、走攻守の内、その何れもが高水準で纏まっている上に、同チーム所属時においてプレイヤーキャラクターの走、守能力成長にかなりの補正が入るらしいのだ。
伝聞系なのは俺が前世のゲーム内で一度も彼と同じチームになった経験がなかった為だ。
ネット記事などを見るに、守りのスペシャリストを育成したければ、真っ先に彼の名が挙がるくらいには有能キャラであると思われる。
そう、PCが野手であったならばの話である。
ピッチャー育成時において、彼のキャラクターは空気と化すのだ。
勿論、試合時においてはその高い能力で活躍してくれる。
しかし、それだけなのだ。
他の野手キャラクターたちは投手育成時でも数々のイベントでその手助けをしてくれるのだが、彼は全くと言って良いほどに、何もない。
そんなこともあって、ゲームユーザーからの彼の評価は極端である。
野手育成厨からは“有能”、投手育成厨からは“無能”とそれぞれ全く異なる評価を受けている。
「チクショウ、何故俺はピッチャーなんだなんだなんだ・・・・(エコー)」
「えーっと、どないしたん?元気ないならとりあえず飴ちゃんいるか?」
「あんがと。遠慮なく貰うわ」
レモンの酸味が今は心地良いぜ。
口の中で飴玉をコロコロすると、ちょっぴり落ち着いた。
「突然取り乱して悪かった。俺は佐藤大地。ポジはピッチャーメインだ。後ろのクソイケメンは無視して良いぞ」
「おい、佐藤!」
「黙れイケメン!かなり顔が良くて、めっさ野球が美味いからって調子乗んじゃねえぞ!」
「そ、そんな褒めないでくれよ」
「この天然イケメンは円城寺凪解流な。ポジはピッチャー、こんなんだけど実力は間違いないから。あれだったら陰で工作する?しちゃう?俺は全然オッケーよ?」
「えーっと、あんさんらが仲ええんはよー分かったわ」
「貴様の目は節穴かッ!」
どうやらこのおさるくんはアホの子らしい。
何処をどう見たら俺とこの赤髪クソイケメンが仲良しこよしに見えるのか。
「そんな、佐藤と僕が無二の親友だなんて・・・」
ヌッコ〇スぞワレェェェ
何クネッとんねん、しばいたろか?
俺が軽く殺意に突き動かされそうになっていた時だった。
「君たちさっきから五月蠅いよ。静かにしてくれないか?」
静かでそれでいてはっきりと通る声がした。
なんつーかいきなり冷水ぶっ掛けられたみたいな気分になった。
声の主を探すと如何にもなクール系王子様がいた。
銀髪碧眼で顔のパーツもそれぞれ申し分なく整っている。
そして、何より彼の纏うオーラが尖った氷のような、切れたナイフ的な凄みを帯びている。
これはアレか、強者ムーブ的なアレか。
とりあえず、自己紹介から始めよう。
じゃなきゃ何も始まらん。
「お、おう。すまんね。俺、佐藤大地よろしく」
「ぼくたち一応、代表の座を競う敵だよね?そういうのいる?」
容赦なく一刀両断されましたぁぁぁ
君は何しに来たの?的な、ここに来た理由分かってる?的な視線いただきましたぁぁぁ
ステイステイ、落ち着け俺の荒ぶる御魂よ。
「ま、まぁ、そんなこと言わずにさ。折角の出会いだし。ほら、一期一会って言うじゃん?」
「はぁー。君はすぐいなくなりそうだし、これから先僕と関わることもないだろうから遠慮させてもらうよ。じゃ、つるみたい人たちでつるんでてよ」
そう言って、奴は俺の差し出した手をガン無視して控室を出て行った。
すうううううううう
はああああああああ
「あのガキぜってええええええ、シバく」
「なぁ、ジョージさんや?サトーって結構なプッツンさん?」
「ぷっつんさん?は分からないけど、いつもあんな感じだよ?」
怒り狂う俺の後ろでおさるとジョージがそんな事をヒソヒソ話していたことに俺は気付かなかった。
佐藤 大地 の ヤル気 が 上がった
佐藤 大地 の 調子上限 が 一時 限定解除 された
佐藤 大地 が 熱血モード に 突入 した
佐藤 大地 の 体力限界値 が 上がった
円城寺 凪解流 の 評価 が 少し 上がった
猿渡 文貴 の 評価 が 少し 上がった
氷室 鏡清 の 評価 が 底 を 着いた
佐藤 大地 12歳 身長169cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX98km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》《度胸》《太胆浮敵》
称号:《益荒男》
好敵手:円城寺 凪解流
敵 :乙女たち