これは主人公補正ではない。これはただのオマケ
「あ、そう言えば円城寺、佐藤。お前らなんか一か月後くらいに合宿に呼ばれてるからよろしく」
練習後に監督はそれだけ言って帰って行った。
うん、とりあえずね、その概要くらいは伝えてくれても良いと思うの。
という訳で、そのまま監督宅に突撃し、おっさんの奥さんにおもてなしを受けながら、監督からその詳細を聞き出したのである。
因みに、その美人な奥さんに監督さんはこってり絞られていた、ざまぁぁぁぁ。
まぁ、そんなダメ男曰く、選考の理由は
「円城寺目当ての、俺」
とのことらしい。
円城寺は見るからにセンス抜群だし、華がある。
そんでモブは左腕で小学生にしては背あるし、おまけで呼んでみよう、となったのだそうな。
俺は悟った。
これはレアイベントだと。
自身のプレイ中には経験できなかったが、攻略サイトの記事で目にした覚えがある。
一定のステータス基準を満たし、尚且つ何らかの環境条件をクリアした時に発生するレアイベント通称「安倍」。
記事の著者は「(イベントを)起こせれば儲けもの、成功すれば大儲け」と吹聴していたはず。
ただ、その【安倍】を意図的に起せたプレイヤーを俺はネット上では見たことがない。
俺の記憶では、複数回【安倍】起こせたって、自己申告する奴はいたが、その証拠も、発生条件も提示できる奴は一人もいなかった。
そんな稀少な機会が巡って来たと。
ふむふむ。
こりゃあ、ラッキーかもしれない。
日本代表候補の合宿となれば、円城寺の他に俺の知っているキャラクターが現れるかもしれない。
個人的には、特殊なカーブを決め球に使う立河宗晴か伸びのある速球で押しまくる倉科隼人辺りを期待したい所ではある。
え?
物欲センサー?
残念、ここは歴とした一つの世界線なのだ。
あれ?
つまり、ゲーム?
いやいや、んな訳ない・・・・・・よね?
そんな訳で、日本代表(候補)となった私、学校のヒーロー、とはなりませんでした。
だって、もう一人ヒーローに相応しい美少年がいるんだもの。
女子共は将来有望なイケメンに唾を塗りたくろうとメイクにバストアップと宛らOLが如き激烈な執念を燃やし、結果周囲の同性を警戒牽制妨害とひたすら場外暗闘に勤しむ中、スクールカースト上位のちょっちイケてる野郎どもは少しでも、奴に並び立つイメージを獲得しようと、円城寺に接触を試みるがなしの礫で、即KOととても情けない姿が目に付く。
ああいうのを見てしまうと、ちょっとホッとしてしまうモバーな僕ちん。
「人の世の醜さがつまっている・・・」
「今こそ悟りを開く時なのです」
「俺はこのふざけた現実をぶちコロス」
などと、心を閉ざす奴らも出て来る始末。
これはあかん。一種の集団感染や。
「せんせー、この状況は大変よろしくないと思われます」
俺は頼りになる大人に救いを求めた。
「ん?大丈夫だろ。思春期は誰でも思い悩むもんさ。他人と自分を勝手に比較して、悦に入ったり、落ち込んだり、色々だ。で、それを自分と向き合って、己で調整していくのもまた思春期なんだよな」
「でも、それって自分で如何ともし難い人は為す術なしってことじゃないですか?」
悦に入り浸りな奴は矮小で傲慢なまま、落ち込みを振り払えない奴は弱気で怯えたままってことでじゃね?
「そうなりそうな子たちには先生みたいな大人たちが手を貸すさ。でもさ、佐藤。今現在でお前には先生の助けは必要か?」
「いえ、今の所特にはないですね」
模範的優等生佐藤君には悩みなど存在しないのだ!
いや、ちょっとあるかも。うーん、やっぱりないわー。
「だろう?それなのに、先生が佐藤に「大丈夫か?」「悩んでないか?」「話を聴くぞ?」なんてしつこく訊き続けたら佐藤は鬱陶しく思わないか?」
それは確かに面倒臭い。
「それに、何でもかんでも大人が手を出してしまうとな、子どもってのはそれに従っちまうんだよ。安心感ってやつが心地良いんだな。で、その味を覚えてしまうと、そこから抜け出すのに苦労するんだ。だから先生が手を貸すのは最後の手段って訳よ」
担任は少し伸びをする。
それにつられて椅子の背が軋む。
相変わらずの猫背は今日に限って広く見える。
「あれ、今の先生ちょっと二枚目じゃね?」
錯覚でした。
はい、撤収ー。
結局、炎上G案件は下火どころか勢いを強めていく。
「円城寺くぅ~ん!」
「キャー!!」
語尾にハートマーク幾つついてんだろうね、って感じの黄色い声援が鳴りやむ所を知らない今日この頃。
円城寺の肩身は校内及びチーム内においてもその置き場を失って行った。
モテるのも此処まで来ると哀れだな~なんて他人事だった某ですが、流石にこれ以上の事態の悪化は回避すべきと思われます。
が、状況を改善するために何をすべきかてんで分かりません。
チームの練習効率も格段に落ちている現状。
「ちょっと、アンタどいてよ!円城寺くんが見えないじゃない!」
ピキッ
「やっぱり円城寺くんはカッコいいよね~。周りのレベルが低いとよく分かるわ~」
ピキピキッ
「あ、そこの人で良いから円城寺くんの写真撮って来てよ。どうせ、控えか何かなんでしょ?」
ピキピキピキッ
「ずっる~い!私も」
「私も!」
「私、笑ってる顔ね!」
「私はストイックな時の円城寺君!」
「私は」「私は」「おいどんは」「某は」・・・・・・・・
ふぅ~
すてんば~い、すてんば~い。
落ち着け、俺。
目の前に群がるのは、不愛想に餌だけ寄越せと近寄って来る野良猫だと思うんだ。
さすれば、この理不尽共を天誅したい欲求はなんとか抑えられ
「早くしてよ!」
「ホント使えない!」
「・・・・・バキッ」
あ、ごめんなさい。
間違ってアナタノガラケー逆パカしちゃった、テヘペロ?
「・・・・・グシャッ」
あ、すみません。
間違って、落としたアナタノカメラ踏んづけちゃいましたニッコリ
「ちょっ!!」
「アンタ!!!」
すぅ~~~~~~~~
「ギャーギャーギャーギャーうっさいんじゃアホタレがぁぁぁぁぁ!おどれらさっきから練習の邪魔してるんが分からんのか!ピーチクパーチク、騒ぎ立ててよぉ、そんなにイケメン見たけりゃモデル雑誌読んでりゃ済む話だろーが!それを、いつまでも、いつまでも、いつまでも、ここは動物園でもなけりゃ、テレビの画面でもねえんだぞ!夢見る乙女(笑)も大概にしろや!」
ぽか~んな女ども。
それでも、俺に言われたことに理解が追い付いて来ると各々差異はあれども皆憤怒ラバーな顔つきに変わって行く。
ヘイ、監督さん。
ゲラゲラ腹抱えて笑わってないで、アンタが真っ先に注意してれば済む話だったんじゃないの、おん?
「仰る通りで!」
ヘイ、えんじょうじぃ~。
テメーもテメーで知らん振り決め込んでねえで、「邪魔だ、失せろ」ぐらい言ったらどうだ?
お前がダンマリだからあの猿共ブレーキ効かなくなってんだろーがよ。
「・・・」
尚も沈黙を貫こうとする野郎。
なるほどなるほど。
そーかそーか。
へーへー。
「コ〇ス!!」
唸る俺の右手。
利き腕ではありません。
しかし、俺の思いはそんな些細なものに左右されるものではない。
「絶許根絶のファーストブリッ娘ォォォォ!」
「佐藤ッ!落ち着け!」
「円城寺は悪くないって!」
「すてんば~い、すてんば~い」
オメーら、止めてくれるな!
俺はコイツをぶん殴らなきゃならないんだ!
結局、その日は碌に練習にならなかった。
が、次の日から円城寺のおっかけどものヒートアップも沈静化したような気もする。
佐藤 大地 の 経験値 が ちょびっと 下がった
佐藤 大地 の 異性好感度 が 底 を ついた
佐藤 大地 の 異性好感度 が 最低 を 振り切った
一定条件を満たした為、佐藤 大地 は 称号《乙女キラー》《悲しみの青春時代》を獲得した
称号《男の中の漢》《乙女キラー》《悲しみの青春時代》が統合され称号《益荒男》を獲得
称号《益荒男》の獲得に伴い、能力《太胆浮敵》を習得
とりあえず、俺に世界は優しくないということが再確認できた。
シクシク・・・
佐藤 大地 12歳 身長169cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX98km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》《度胸》《太胆浮敵》
称号:《益荒男》
好敵手:円城寺 凪解流
敵 :学内の女子及び近隣の女子学生
簡単な能力説明
太胆浮敵・・対戦打者(投手)の持つデパフ能力を無効化する。はっきり言ってチート。
壊した機器についての後日談
流石に各ご家庭に連絡が行く→佐藤くんママンが無双→パパ・息子((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
→佐藤家が弁償し、佐藤くんが謝罪→乙女たちも謝ってニッコリ円満解決(物理)