第二試合は荒れやすい
昼休憩を挟んでの第二試合。
先発は六年生の田山先輩。
野手メンバーも全て入れ換えての二軍戦(通称B戦)。
一応、佐藤君はこの試合で登板予定であります。
第一試合で、炎上マンが投げ切ってしまったので、この試合で一軍の投手陣も使わなければならなくなってしまったのです。
こういう時、不満はその原因である人物に向かうものですが、
「まぁ、あのピッチングならなぁ」
「代えらんねぇよなぁ」
「しゃーねぇべ」
うちのチームメイトは出来た子が多いみたいです。
そして、始まった第二試合。
展開は打ち合いと相成りました。
五回を終えてスコアは7-9の2点ビハインド。
六回表から佐藤君の出番ですよ、と。
「相変わらず締まらないな、佐藤」
そうナチュラルに人をディスるのはキャッチャーの大福寺先輩(6年生)。
仏のような顔をしながら自然と人に毒を吐くその姿はレギュラー、非レギュラー問わず大層恐れられている。因みに全国統一学力試験総合順位3桁のインテリ中のインテリである。
ってか、全国統一学力試験総合順位3桁ってパワーワード感強いよね。
え、私?
得意科目でも精々全国八千番くらいとかですが。
俺の前世って、トホホ。
あ、気分が落ちてきた。
あ~ダウナーだわ~。
「大福寺先輩、投球前に投手のやる気削がないで下さいって」
「俺は事実を口にしたまでだ。それを気にするということはお前の方に非がある訳で」
藪を突いて毒蛇とか勘弁ですって。
「すみませんでした。自分が悪かったです」
即謝罪は事なかれ主義のワタクシには朝飯前であります。
でも、これを多用すると周りからの信頼がガタ落ちするから程々にな!
お兄さんとの約束だぞ?
「分かれば良い。で、ベンチでも伝えたが、この回は緩急を意識して丁寧に投げろ。荒れた試合展開に呑まれるなよ」
「サー、イエッサー!」
鬼軍曹の前に一兵はただただ頷くのみなのである。
「だいぶ余裕があるらしい。なら、この回は三人で抑えろ。出来なかったら、分かるな?」
ちょっとおふざけが過ぎたらしい。
やばいよやばいよ。
◇
先頭バッターは右バッター。
野球ゲーだと左投手って右打者と対戦する時、能力値は下がる。
しかし、俺は右打者は大好物だ。
なぜなら、
「くぅろす~、ふぁいやぁぁぁ~!!!」
ビシッ!
「ットライーク!!」
クロスファイヤーで打者の内角を抉れるからに他ならない。
この気持ち、分かる人には分かると思う。
(キモティィィィィ!)
前世では決して得られなかった実感。
超キモティィ。
おっと、返球の威力ががが
大福寺パイセンは人をよく見てるからなぁ。
大方「気持ちが浮ついてるぞ」って所だろう。
第二球は、ふむふむ低めにカーブ、と。
てやっ!
ぶぅん!
「ットライーク、ツゥッ!」
タイミング思い切り外れてたな。
コースは真ん中よりだったけど、まぁ、結果オーライ的なあれでオールグリーンですぜ。
大福寺先輩の採点は、
『ギリギリ及第点だ』
うーむ、厳しい。
というか、大福寺先輩は小学生Pに求めるハードルが高いと思うんだが。
外角と内角に投げ分けられたら、十分じゃないかと思うのは私だけでしょうか?
そう言えば『嗚呼、我が野球人生』でも小学生時代の投手育成はハードだったな。
変化球を複数覚えさせると、怪我のリスク高まるし、その時は良くても後々爆弾抱えたり、故障しやすくなったりするし、かと言って直球だけじゃ、抑えられんし、試合で負けに負けてバッドステータスが付きまくるし。
結論、
程々が一番。
だから俺は変化球はカーブしか投げないのです。
なので、二つ目の変化球は中学生になってから習得しようと考えているのであります。
おっと、サインが出てる。
一球外すのね、了解であります。
なんとか三者凡退で終え、ベンチに引き上げます。
ふいー、疲れたー。
「佐藤」
はいはい何でしょう大福寺先輩。
「性格はどうあれ、お前は良いピッチャーだ」
この伊達眼鏡、レンズ割ったろうかな、いやマジで。
「だが、所詮は地区レベルでの話だ。その小学生にしては高い身長もいずれは打ち止めになって自分より背の低かった者達に追い抜かれて行く定め」
止めるなお前ら。
俺はこのインテリ野郎をぶっ飛ばすと死んだ曾爺ちゃんにたった今誓ったんだ。
「だからこそ、今に満足するな。練習には意味を持って取り組め。試合をただこなすな。全てを糧にしろ。あと、その空っぽな脳味噌に少しでもより多くの知識を叩き込め」
やっぱり〇ス!
コイツヌッコロす!
「そうすれば、お前は凄い選手になれる、かもしれない」
そこは断定しろよ!
やっぱ俺をディスりたいだけだろこのドS!
六回裏の攻めは八、九、一番がこちらも見事に打ち取られました。
私も打ち取られましたが、何か?
ん、大福寺先輩どしたんすか?
「佐藤、なんだあのへなちょこなスイングは」
追い打ち掛けるのはやめろぉぉぉ!
そして、七回表の守り。
マウンドには尚も佐藤君。
さて、最後はキチンと締めましょうかね。
最終回一人目のバッターは佐藤くん大好物の右打者。
大福寺パイセン、二球連続外角ストライクゾーンへ直球を要求するもピッチャー佐藤くん、見事に二球連続ボール。
オカシイナ、ナンダカウマクイカナイナ
ソウダ! ナイカクヲセメルノハドウダロウ?
スパーン!
パイセンから厳しい返球。
はい、サーセン。
三球目はカウントを取りに行ったカーブを当てられたが、緩いサードゴロでワンアウト。
二人目は左打者で、構えがかっちょイイ。
しかし、雰囲気だけの奴だったらしく、カーブ、カーブ、ストレートで三球三振。
三人目は結構ガタイの良い少年で、高めの直球を打ち返されるも、センターフライに収まった。
結果、スコアは7-9のまま試合は終わった。
俺は六人の打者に対し、被安打0、三振は二つ奪った。
佐藤 大地 は 経験値を得た。
監督 の 評価が上がった。
大福寺 光臣 の 評価がちょっぴり上がった。
円城寺 凪解流 の 評価が上がった。
円城寺 凪解流 の 対抗心が増した。
神ゲーがどうしてこんなクソゲーに・・・・・・
時は巡る。
俺は小学六年生になり、修学旅行で枕投げ大戦を敢行し、徹夜で正座の刑を喰らい、自由行動中に迷子になった結果、校長に説教を喰らったり、他所の学校の野球少年と一打席勝負したりした。
中々濃い二泊三日だった。
それから更に三ヶ月後。
俺は何故かU-12代表選抜合宿とやらに炎上マンとともに参加する羽目になったのである。
なしてこうなった?
佐藤 大地 12歳 身長169cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX98km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》《度胸》
称号:《男の中の漢》
好敵手:円城寺 凪解流