CP操作ほど信用ならないものはない
キーンコーンカーンコーン
あー、退屈な授業が終わった終わった。
今更、関数とか、余裕のよっちゃんですわ。
因みに宿題に配られたプリントは全て授業中に終わらしている優秀な佐藤くんであります。
そいじゃ、さっさとグラウンド行くかなぁ。
「おーい、サトー、宿題の答え合わせしようぜ」
そんな悪友からの誘いだが、俺には奴の魂胆など手に取るように分かる。
「ほう、なら、オメーの用紙見せてみろ。答え合わせなんだから白紙ってわきゃねえよな?」
「チッ、相変わらず硬え奴だな」
ほれ見ろ。
人の努力を上澄みだけ頂こうなんざ甘過ぎなんよ。
「サトー、ここ分らん。おしえてー」
「あん、どこよ?」
「おれもおれも~」
「あ、おれも~」
前世の記憶とそこそこの努力もあって、俺は勉強が出来る奴のイメージがクラス内で浸透している。
それに、前世含めて三回り近く年下の同級生たちからのお願いは何となく断り辛いのだ。
先程のようにズルを狙う輩には容赦しないが。
そうやっているとズルズルと帰る時間が遅くなっていき、
ガラガラガラ!
扉が大きな音を立ててスライドされ、
「遅いぞ佐藤!」
ウチの教室に赤髪の悪魔が降臨する羽目になる。
『キャーーー!』
一斉に女子たちから黄色い声があがり、一方
『BOOOOOO!!』
男子共からブラックなコールが巻き起こる。
これらの流れは最早ウチのクラスのというか学年のお約束になりつつある。
赤い奴は既に練習着に身を包んでおり、やる気満々である。
小学生ながらもその姿はとても様になっていてとても妬ましい。
「もうちょっとしたら行くから先行ってろよ」
「分かった。直ぐ来るんだぞ!」
ピューっと教室から走り去っていく変人。
女子からは嘆きの声が、男子からは安堵の溜息が。
兎に角、周囲を引っ掻き回す面倒臭い奴だ。
「うーし、そいじゃあ、パパっと教えっから耳かっぽじってよく聴いとけよ~」
慌てるダチを尻目に俺は補習講座を再開した。
◇
俺は野球少年団に所属している。
本当はサッカーやりたかったんだけどなぁ。
何故か野球少年団に入団しちゃったんだよなぁ。
今思えば、ある意味ゲーム世界の強制力とでも言うのだろうか。
そんな不可思議億万パワーが働いていたのではないかと疑ってさえいる。
まぁ、過ぎたことは気にしても仕方がない。
今は現実と向き合おう。
「準備運動はしっかりやったな?それじゃあ二人一組になってキャッチボールだ」
監督さんの指示で一斉にチームメイトがばらけ始める。
こういう時、露骨に友人の有無が分かってしまうのが、世の残酷さである。
因みに俺はと言うと、
「地母神、組もうぜ」
「(ジーッ!)」
「ああ、あーやっぱ遠慮しとくわ。アイツに悪いし」
「京斉、一緒に「あー、俺別の人と組むけん」
「(ジーッ!!)」
「仁科ぁぁぁ」
「(ジーッ!!!)」
「え、えーっと、ごめん!」
・・・・・・・
「・・・・・・」
「(チラッ)」
「ハァ、組むか?」
「そうか!仕方ないなぁ、佐藤が其処まで言うんだったら一緒にやろうか!」
俺はこの後、堪りに堪った怒りと呆れと疲れを奴に全力のボールを投げることによってなんとか消化したのであった。
それから二時間半ほどで練習は終わった。
疲れたぁ。さっさと帰ろ。
「あ、忘れてたけど。今週の土曜日練習試合組んだから。七時にグラウンド集合で。弁当も忘れんなよーそいじゃあ、今度こそ解散!」
あまりに突然の報せにチームメイトたちは口をあんぐり。
当番の父母さんもこれには驚きを隠せないご様子。
おい、おっさん、そういうことは帰り際にサラッと話す内容じゃねえだろ。
監督はそのまま自家用車でぶいーんと帰ってしまった。
しまった、対戦相手のこととか色々聞いてねえ。
「うおーっ!燃えて来たーッ!!」
炎上Gが五月蠅い。
そして、なんかチームメイトの視線が痛い。
え、俺に何とかしろと?
お前ら毎度毎度俺に。あのバカ押し付けすぎだろ。
しゃーない。
「おい、円城寺。あんま騒ぐな。周りの迷惑も考えろ」
「はっ!そうだな!悪かった、皆!」
このバカみたいに真っ直ぐな所はコイツの唯一と言って良い美点かもしれないな。
「佐藤!試合ではどちらが相手打線を抑えられるか勝負だ!」
ピコン
《条件を満たしたのでユニークイベント:全ての始まり を開始します。》
やっぱり訂正。
こいつはやっぱり迷惑極まりないマンだ。
円城寺 凪解流 の 友好度が上がった。
チームメイト の 信頼度が上がった。
佐藤 大地 の やる気が下がった。
◇
チュンチュンチュンチュン
練習試合当日。
目覚めは、
ほどほどだった。
佐藤 大地 の やる気が少し上がった。
うーん、まだ時間あるな。
寝よ。
・・・・・・
ガバッ!
「寝過ごしたぁぁぁッ!」
いかんぞぉぉ。
これで時間に間に合わなかったら、チームメイトや監督の評価が下がって、やる気もどん底に落ちて、最悪の場合バッドステータスが付きかねん!
「ダダ、ダッシュ!」
お袋が作っておいてくれた握り飯をむしゃむしゃしながら俺は家を飛び出した。
ダダダダダダ
「ねぇ、ママーあのお兄ちゃん凄い顔して走ってるよ~」
「あれはね、人生に追われているのよ。そっとしてあげましょうね?」
「そうなんだ~。わかった~」
ダダダダダダ
「うお、なんだぁ?」
「ありゃ、大方寝坊でもしたんで慌ててんだろう」
ダダダダダダ
「遅いぞ佐藤!」
待ち構えていたのは悪魔でした。
「全く、折角の試合に遅れて来るなんて・・・」
「(気にすんなって。あんなこと言ってるけど、円城寺の奴、集合する一時間前に来て騒いでたから近所からクレーム入ったらしいぜ?)」
チームメイトから聞いた事情に、不覚ながら安堵を覚えてしまうのだった。
◇
「プレイボーッ!」
我らが頼東小学校の先発は皆さんお察し円城寺君。
「燃えろッ!」
うん、君の投げる球は何で赤い炎のようなエフェクトが見えるんだろうね。
私にゃ不思議で仕方ないよ。
つか、投手が燃えろなんて言うんじゃねぇよ、縁起でもねぇ。
ベンチに戻って来てから〆た。
そんな炎上Gだったが、立ち上がりから速球が冴え、相手チームに二塁を踏ませないピッチングを続けていたが、突如乱れ始める。
切っ掛けは味方の失策からだった。
強いゴロを内野がトンネルしてしまい、ランナー一塁となってから四球を連発し、ランナー満塁。
「佐藤、どうにかして来てくれ」
投げやりな監督の指示により佐藤君が伝令でマウンドへ。
マジで仕事しろやおっさん。
とりあえあず集まった内野陣。
しかし、皆の表情は暗く、特にエラーした杉村くん(6年生先輩)はずっと下を向いていた。
ちょっと気不味い。
「おい、円城寺」
「・・・なに?」
態度の悪さにこいつの今の機嫌の悪さが窺える。
しかし、俺は大人だ。イラッとなんかしたりしないし、怒ったりもしない。
「プッ、何その「俺は悪くないオーラ」。このピンチは明らかにフォアボ連発したオメーが原因だろ。顔が良いからって調子乗んなよ、この〇〇野郎」
俺の黄金の左手が首元を横切りそして地に向かって振り下ろされる。
因みに俺の左手はGOODなジェスチャーです。
「大体さぁ、お前三振狙いすぎだろ。球数多すぎるしテンポ悪いんだよ。オ〇ニー中毒も大概にしとけよこのナルシストがぁー!」
俺の説教は止まる所を知らない。
これは決して私怨などではない。
決して妬み嫉みなどではないのだ。
「俺だってモテてぇんだよー!!!!」
話が脱線している?
知ったことか、バカヤロー!!
「大体お前はなぁ「分かったから戻りなさい、君」へ?」
何時の間にか球審さんがマウンドまでやって来ていた。
あ、ヤバす。
「とりあえず、杉村さん、この回コイツが大炎上してもそれはコイツのせいなんで。気負わなくても大丈夫ですからね~」
俺は球審さんに引かれながらベンチに戻って行った。
「監督、すみません!」
「ああ、面白かったから全然かまわんよ」
普通は怒られる所だと思うのだが、やはりウチの監督は少しオカシイ。
その後、炎上Gは一点を失うも何とかその回を終える。
それからが凄かった。
「ットライーク、バッターアウッ!」
直球で押しまくるスタイルはそれまでと変わらなかったのだが、ボールのキレが段違いに上がったのである。何やら奴の後ろにメラメラと燃える炎が見えるのは俺の気のせいに違いない。
ってか、出来るなら最初からやれと声を大にして言いたい。
ハイスぺ先発がCP操作で大炎上は絶許、これ常識である。
結局、試合は4-1で勝った。
めでたしめでたし。
佐藤 大地 は 経験値を少し得た。
佐藤 大地 は 《煽り》を取得した。
佐藤 大地 の 評判が下がった。
チームメイト の 評価が上がった。
円城寺 凪解流 の 友好度が下がった。
円城寺 凪解流 が 《好敵手》になった。
やっぱめでたくねー
佐藤 大地 11歳 身長166cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX90km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》
称号:《男の中の漢》
好敵手:円城寺 凪解流