特別はなりたくてなれるものじゃない
選考合宿4日目、今日も晴天に恵まれり。
絶好の試合日和と言えるのかもしれないが、正直監督としてはダブルヘッダーには頭を悩ませることしか出来ない現状がある。
え?
オメー選手だろって?
馬鹿を言いなさんな、こんな巧い狼たちに豚さんが一匹混じったらそれこそ美味しい餌にしかなるまいよ。
だから俺は絶対試合になんかでねえぞ!ぶひぶひ
「よっく分かんねぇな、オメェ。こーゆーとこ来たら普通試合出てえべ?」
鬼さんや、飲み会に行ったら絶対に二次会行くでしょ?みたいなノリで言われても、一次会で帰宅したい人もいるんだよ?
あー、会社の飲み会は地獄だったなぁ。
飲むのは良いけど呑まれるのは駄目だよな、いや、マジで。
あ、当然前世の話ですよ?
「サトやん、整列やで」
お、試合が始まりますなぁ。
それでは、佐藤大地、監督しての第一歩や!
「佐藤、必ず一試合に一度は出場するように」
コーチィィィ、その容赦のなさ一周回って素敵ですわぁぁぁ。
◇
「えー本日も晴天に恵まれまして絶好の野球日和となりました」
「・・・・・・」
「それでは私、佐藤大地と三沢行則くんで実況していきたいと思います」
「・・・・・・」
「なぁ、三沢ッチ空しいから何か喋ってくんね?」
「佐藤」
「はいよ、なんだい?」
「キャッチボールしてくれないか」
「あ、サイデスカ」
という訳で若干コミュニケーションに難ありの三沢とベンチでお留守番のワタクシ。
「一応、ゲームプランとしては三沢には五回から投げてもらうつもりだったんだけど、肩つくるの早くないかね?」
「・・・俺は、あまり、要領が良くない」
それがどうした?と思わなくもないが、真面目顔(無表情とも言う)なので黙っときましょう。
「だから、他の人の倍はやらないと」
何となく、本心からの言葉なんだなぁと思う。
えげつないスピードボールを投げるこいつにも悩みがあるんだな、とちょっと意外に思います。
いや、よくよく考えるとそうでもないか。
この三沢なる少年、朝一番に自主練習を始めて、夜もコソ練してると猿から聞いた。
負けたくないってよりかは、不安だからやる感じなのね。
「一意専心。いや一意攻苦か」
「・・・なんだ?」
「いや、三沢ッチにピッタリな言葉。意味は確か、苦しみながらも頑張る的な感じだったと思う」
「一意攻苦・・・」
「そっ。しんどいだろうけど、そういう言葉があるってことは、少なくとも三沢ッチの考え方は誰からも否定されるようなもんじゃないんだろうよ」
実際俺じゃあ到底できないような努力量だもんなぁ。
ちょっとでも報われて欲しいと思うのもやぶさかではないぞ?
プレイボーッ!
おっと、始まりました。
うちのスターティング表は以下の通り
一 中 佐川
二 遊 猿渡
三 右 円城寺
四 捕 砥部
五 三 内田
六 一 鬼澤
七 左 遠藤
八 二 絹
九 投 域成
はい、予定と変わらずです。
とりま問題はねぇだろう、きっと、多分、恐らく。
んで、此度の対戦相手、グループHのメンバー表がこちら。
一 遊 倉木
二 右 内川
三 中 慶本
四 一 大島
五 左 練
六 捕 住田
七 三 門井
八 投 佐藤
九 二 田中
控え 市毛、副島、工藤
うん、まぁ。ツッコミたいとこありますが、敢えて突っ込まない方向で行こうか。
そりゃあ、ポピュラーな名字ですしぃ。
まったくこれっぽっちも気にしてないですけどもぉ。
ええ、ただの偶然ですから、さぁ皆さんご唱和ください。
せーの
「何か負けた気がすんぞクソがぁぁぁぁぁ」
「佐藤、黙れ」
グズン、コーチが冷たいです。
しかし、監督に落ち込んでいる暇などないのだ!
30秒で切り替えだ!
情報通ウッキッキによると、グループHの要注意人物は三人とのこと。
一人目は遊撃手の倉木、攻走守の何れも高い水準で熟すオールラウンダーとのこと。
ちな、爽やかイケメン。
うらやま。
二人目は一塁手の大島、パワーヒッターで結構名の知れた奴らしい。
強面イケメン。
すげ。
そして三人の中で最も警戒すべき最後の一人が、中堅手慶本。
全国級の俊足と非凡なバッティングセンス。
ピッチャーとしても強肩を活かしたパワーピッチングで本職タジタジの速球派であるとのこと。
そしてテラ爽やかイケメン。
何このイケメンの大安売り
イケメンってこんな供給過多で良いんですかね?
もうちょっち稀少性あるもんじゃないか?
有難味が薄れるだろ。
しかし、俺としてはそんな非常人どうでも良い。
我が敵は唯一人。
グループH先発投手にして、我と同じ苗字を持つ者。
佐藤 良太 (フツメン)
チラッと観察した限り、右のスリークォーターからテンポよく投げるタイプと予想。
速球派というよりは軟投派の部類だろうか。
低めの変化球をきっちり見極めてプレッシャーを掛けて行って、甘く入って来たボールを仕留める。
うむ、これで行くべきか。
カキーン
おろ?
気付けば相手チームの先頭打者が出塁しているではあーりませんか。
えーっと、くら、くら、とりあえずそんな感じの奴だな、うん。
決してイケメンだから扱いが雑な訳じゃないぞ!
次の打者はきっちり送りバントを決めて来る。
うーむ、そつがないな。
そして、ワンアウト二塁となって、注目の打者慶本を打席に向かえる。
左打ちか、構えを見るとやはり雰囲気がある。
漫画とかでよく見るオーラって奴とは違う。
あれは「な、なんだ!この圧倒的なオーラは!!」的な威圧的で何処となく攻撃的なものが多い。
憧れるけどね。
で、この慶本何某の持っている雰囲気って奴は何と言えばよいのか。
そう、例えるならストライクゾーンがやたら狭く感じるとか、投げる前に根拠のない不安や焦燥を感じるとか、兎角こちらを静かに呑み込んで来るのだ。
はっきり言って威圧感MAXのパワー系打者よりこういう静かな打者の方が俺は相手したくない。だって、投げるのがしんどいって投手みたいな人種からしたら最高にクソッタレな存在じゃないか?
とりあえず域成くんには合掌しとこ。
いい夢見ろよ!
初球はアウトコースの直球。枠ギリギリでストライク。う~むお見事。
慶本は目だけで見送った感じだったな。
「イッキーナイピィィィィ!」
ギロリ
うげ、応援したのに睨まれちった。
「佐藤、域成の、ペースを崩すのは、良くない」
あ、さいですか。
応援ひとつ取っても難しいんですね、現実って奴は。
二球目はボール。
直球が大きく外れた。
しかし、砥部チンの巨体だと、そんなに外れたように感じないんだよなぁ。
これも案外投手にとってはプラスだったりするんだなぁ、いやマジで。
クソみたいな球投げた後って、何となく投げにくいんだよ。
気持ち悪いって言うんかな?
それが軽減されるってのは投手にとって大変有難いことなのです。
神様仏様砥部様様ですわ。
南無南無しているとイッキーが次のボールを投げてました。
奇しくも初球と同じアウトコースの直球。
異なるのはその高さのみだった。
カキーン
打球はサードの頭上を越え、更にはレフト線を鋭く抜けていく。
完璧な当たりだった。
二塁走者は悠々とホームに帰還し、打者は何と三塁まで進む始末。
域成は大丈夫かいな?
顔色悪いな、ありゃだいぶショック受けてるわ。
しゃーねえ。
「三沢、カモン。出番じゃ」
「・・・早くないか?」
「ああそういう出番じゃなくてダナ」
◇
域成 周吾という少年は恵まれた少年である。
裕福な家庭に生を受け、両親の愛情を目一杯に受け、何不自由なく過ごして来た。
勉強も学年で指折りにこなし、運動も卒なくこなし、人は彼を称賛した。
彼の人生には特に苦難などなく、これからの人生もそれは約束されたものである筈だった。
しかし、そんな井の中の蛙はこの合宿で、自らの矮小さを知ることになった。
自分に与えられたビブスの数字で己の価値に衝撃を受けた。
自信の揺れから来る動揺とそこから逃れようとする苛立ち。
お世辞にも良い状態などと言えるものではなかった。
上を見れば別格の才能、隣には自分より格段に優れた速球を投げる同格、下の者達も侮れない。
そんな時だった。
「イッキーはやっぱり纏まってんなぁ~。先発投手としてはぱーぺきじゃね?」
そいつはグループ内で最も劣等な選手だった。
「イッキーはウメーな。で、そのやり方教えてくれるよねぇ?(にっこり)」
そいつは馴れ馴れしかった。
「イッキーん家って結構ブルジョワ?」
そいつはアホだった。
それは中流階級を示す言葉である。
「イッキーは憧れの選手とかいんの?」
そいつは対等だった。
どんなに力の差を見せつけても、どんなに無碍にあしらおうとまるで、ゾンビもかくやというしぶとさで近寄って来る、
困惑し、苛立ち、最後には許容している自分が居た。
佐藤と言う同級生は不思議な存在だった。
他のメンバーも皆、彼に対しては心を開いているように見受けられた。
グループ内で際立って技術面で劣り、ストロングポイントも見つからないような落ちこぼれに。
練習中の休憩時間、尋ねてみた。
辛くないのか、と。
佐藤はその言葉の意味を少し考えてから答えた。
返ってきた言葉は。
「んー、乗り切った先にあるナニカ(経験値)が俺を突き動かすのだ!」
と言う要領を得ないものだった。
そして言い終えるや否や
「うおぉぉぉぉ、燃えろ俺の魂!今こそ(経験値ボーナスを)掴む時じゃあぁぁぁぁ」
と叫んで走り去ってしまった。
全く訳が分からない。
214番、佐藤 大地。
奴の姿を見ていると不思議と嫌な気持ちを忘れられた。
無心で練習に打ち込むことが出来るようになっていた。
◇
「たぁぁぁぁいむぅぅぅ!」
気の抜けるような声と共に出て来たのは、ゼッケン番号48番。
声の主はと言うと偉そうに腕を組み仁王立ちしている。
一丁前に監督気取りのようだ。
とりあえず内野陣はマウンドに集まってくる。
「佐藤から、伝言」
「なんやなんや?」
「てか、なんでアイツ偉そうに腕組んでんだべ?」
「・・・・・・」
野手陣は声を掛け合うが、王様だけは硬い表情のまま無言を貫く。
「俺、なるべく、出たくないから、頑張ってくれ、だそうだ」
マウンドに集まった全員の視線がベンチに向く。
視線の先には笑顔でサムズアップを決める少年が一人。
「域成気張りや~」
「だべな、とりあえずベンチ戻ったらアイツシバくべ」
全員がピッチャーに己のグローブをぶつけ守備位置に戻って行く。
あっという間の出来事に投手域成は何が何だか分からず再びベンチを見やる。
三沢を迎え入れたソイツと目が合った。
「(ブチかましちゃれ)」
体の前で利き腕を力強く振るそいつが何を言いたいのかは、聴こえずともすぐに理解できた。
全く以て理解に苦しむ。
出会って数日の、しかも選考で鎬を削る敵に対して、塩を送る阿呆がいるだろうか。
いや、実際いるのだから仕方がない。
(負けないからな)
自分は一際輝く才能も、優れたフィジカルも、強靭なメンタリティも持ち合わせはしない。
ただ、それでも、彼は諦めない。
負けたくない奴がいるのだから。
域成 周吾
RESULT 投球回4 失点2(自責点2) 被安打5 四死球1 奪三振2
三沢 行則 の 評価 が 上がった
域成 周吾 の 評価 が 上がった
域成 周吾 が 覚醒 した。
域成 周吾 の 能力値 が 上昇 した
佐藤 大地 12歳 身長169cm
ポジション:投手 左投げ右打ち
MAX98km/h 球種:ストレート カーブ
能力:《ツッコミ》《短気》《怒髪天》《非情》《煽り》《度胸》《太胆浮敵》《火付け役》
称号:《益荒男》
好敵手:円城寺 凪解流
敵 :乙女たち
仇敵 :神界 真




