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ユウの話(4)

「じゃーん!」


ユウは、効果音付きで制服姿を披露した後、

二人の前でターンしてポーズを決め、教授達に尋ねた。


「似合ってるかなぁ?!」


ホーキング教授は、うーんと唸ったまま答えない。

厳密な解が見つからないのだろう。

ジョシュアが笑って言った。


「宇宙で一番かわいい」


笑顔を満開にしてユウが言った。


「ジョシュア、ありがと!!じゃあ行ってきます!たぶん後は、ルイーズが助けてくれるから大丈夫」


元気よく学校へ出発したユウを見送った後、

教授はジョシュアに言うともなく小声で呟いた。


「病気でずっと学校に行けなくて、私の家庭教師のもと、育っていたという設定になっているが、若干無理があるよなぁ」


ジョシュアも少し不安そうな顔をした。


「まあ、なるようにしかならないか」


教授は玄関のドアを閉めながら言った。


「これも一つの実験だし、この宇宙船にとって最善な道になるかどうかは、神のみぞ知る、だ」


ユウは学校へ行けるのが嬉しかった。


この3ヶ月間、人間世界への適応訓練と、

教授とジョシュアによる詰め込み授業の連続に、ウンザリしていたのだ。


記憶を機械的に植え着けるのは、不自然な結果しか生まない,

という教授の考えに従ったためだが、いや、参ったわ、とユウは思い返す。


あれぞまさに、辞書に書いてあったスパルタ教育。

やっとやっと解放された。


さあ、ルイーズに教えてもらった5人のクローン姉達と同じような、

楽しい学園生活が始まるのよ!


予めルイーズに場所を教えられていた職員室に入る。

ええと、担任のワルター先生の席は、あそこね。


ユウは挨拶をした。


「初めまして、今日転入するユウ・オルティスです!」


ワルター先生が、こちらを振り向きにっこり笑う。


「ようこそ!ホーキング教授の姪御さんなんだよね。私は、教授の教え子なんだよ」


そして、真顔になって、少し声を潜めユウに言った。


「大丈夫?教授は、その、・・・変人だけど?!」


ユウは笑いながら言った。


「良い叔父ですよ!厳しいですけど」


ワルター先生は、ホッとした顔をして、すぐに教室に案内する、と言って、

荷物を傍らに持って、机から立ち上がった。


「それでは、みんなユウと仲良くして上げてください。席は自由だから、そうだな、ベティの隣にでも座りなさい」


ワルター先生は、真ん中少し左側に座った、

ショートカットの少女の横を指さした。


「ベティは、面倒見が良い子だから、学校については色々聞くといい」


少しざわつく教室の中、ユウは、ベティの横に座った。


隣の少女が、ツンツンとユウをつつく。


「ん、なあに?」


ベティが言った。


「ユウ、髪型、似合ってるね!」


ユウは微笑みながら答えた


「お、ありがと!私はユウよ、よろしくね」


ベティは肯いて言った


「私はベティよ。こちらこそよろしくね!私も、髪を伸ばそうかなぁ」


こうして、ユウの学校1日目が始まった。



ユウは、なんであんなに普通なのか?

16歳までの記憶がないことを除けば、全く普通の少女だ。


私は、教授とディスカッションを重ねた。

以下がそのプリミティブな結論である。



人間は、遺伝的要因と環境的要因で人格形成される。

その人格は、記憶にもとづく、

そしてその記憶は体内の神経ネットワークの「クセ」である。


具体的には、どのようにシナプス間がつながれ、

そのシナプスがどのような性質を持っているかで決まる。


そこには、魂の入る余地は無い。


すべては神経ネットワークの結果である。


ルイーズは宇宙船内の「すべて」を記録している。


ユウのオリジナルであるユキから、その後の4人の一卵性双生児の、

すべての行動を記録している。

どのような刺激があったら、どのような反応を起こしたのか、


この総体から、今の時代にユウが生まれたらどのような人格が形成されたか、

シミュレーションを多数行い、

妥当と思われる神経ネットワークを創造した。


そのエミュレーションが、情報体であったユウであり、

バイオテクノロジーによって、それを肉体の形に形成したのが、

現在の生身のユウ、ということになる。


おそらく、教授に引き取られることも想定されていたに違いない。

そこに最もフィットするように設計されているはず。

教授の周囲にいる私自身の存在も、すべて予定通り。


結論から言えば、AIルイーズは、すでに造物主なのだ。


ただし、ここから先、未来まではルイーズにも決められない。

確度の高い予想はできても、あくまで予想でしかない。


そこが、神とは異なる。


ユウには「自由意志」がある。

例え、遺伝形質や、作られた記憶の縛りがあるとしても。



ジョシュアは、ここまで研究ノートに書いて、疑惑を抱いた。


ユウは、初めてのケースなのだろうか?

それともルイーズは、様々な形で、

すでに造物主としての行動をとってきたのだろうか。


もしかしたら、現在宇宙船にいる全員が、ルイーズの被創造物なのでは?!


宇宙線に対して耐性の高い生態システムを、住人全員が備えるように、

DNA編集されているのは周知のこと。


それ以外にも、ルイーズが最適と思われる形に、

すでに我々は改変されているのではないだろうか?


記憶も歴史も、思考さえも。

いかがでしたか?

楽しんでもらえたら嬉しいです。

ユウの話も、次話から後半戦に入ります。


お楽しみに!

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